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白い表紙、畑の写真

書籍名

都市農業の持続可能性

著者名

八木 洋憲、 吉田 真悟 (編著)

判型など

224ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年7月

ISBN コード

978-4-8188-2637-3

出版社

日本経済評論社

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都市農業の持続可能性

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「東京」は世界最大の都市圏であるとともに、その郊外には多くの人々が居住している。そして、人口減少や土地利用の空洞化といった問題が表面化しており、国際的にもその動向が注視されている。
 
本書では、異なる分野の研究者が協力することによって、大都市の郊外に広がる都市農業の持続可能性の実態とそれを向上させる方策を考えることを目的としている。
 
具体的には、日本国内全体でみても、都市的地域において消費者への直売販売や体験農園・観光農園といった多角化事業、あるいは有機農業が盛んであることを示している。こうした地域において農業を営む経営者は、持続可能性を高める活動を通じて、起業家としてのモチベーションや社会的な繋がり、あるいは家族の参画を高めていることも明らかにしている。
 
都市部においては、民間企業が開設する体験農園の数も多く、充実したサービスによって、高い付加価値が得られていること、また、地域住民が農作業や資源循環に取り組むコミュニティガーデンにおいて、長年の実績により教育・福祉施設などの関係主体からの支援も得られている。
 
一方で、市街地近傍での小規模な農地転用が増えており、農地の多い地域においても相続による農地減少が引き続き見込まれ、税制が農地保全において重要な役割を果たしている。こうした農地と宅地のスプロール化は、農業経営の多角化事業を抑制してしまうことが示された。
 
また、本書では、コロナ禍の影響を踏まえたレジリエントな都市農業についても検討している。コロナ禍は、都市近郊の人々にとって、生活や健康を改めて捉えなおす機会となり、都市農業における庭先や共同での直接販売、小売店向けの売上高は増加している。体験型の農園においては、感染対策の制約に直面しつつも、健康増進や対人コミュニケーションを目的として、利用者が増加しているケースが多く、新規農園の開設もみられた。地域住民が農作業に参加するコミュニティガーデンでは、身体的な健康維持だけでなく、それ以上に精神的健康を維持するために活動に参加する市民が多いことも明らかになった。
 
これらの結果から、持続可能性の視点として、消費者への直接販売や農業体験等の交流機会による価値提供やステークホルダーの参画といった面は進展していると評価される。一方で、農薬や生産資材の使用抑制を通じた環境保全や景観保全面での活動促進、および、労働環境、メンタルヘルス、人材育成といった面では、持続可能性を高める余地が大きいことも示された。さらに、机上での持続可能性評価ではない、リアリティとして農業が継続するためには、農地の面的な確保が引き続き課題であり、農業経営や公的利用のいずれにおいても、価値を創出し、組織やネットワークをマネジメントする人材の育成と支援が求められる。
 

(紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 准教授 八木 洋憲 / 2024)

本の目次

第1章 都市農業の持続可能性に関わる論点 八木洋憲
第2章 日本の都市農業および分析対象地域の概要 吉田真悟
第3章 都市農業の多様な取り組みと立地条件 吉田真悟
第4章 継続可能な都市農業経営の特徴と今後の展望 吉田真悟・八木洋憲
第5章 市街化に伴う都市農地の転用とその計画的保全 寺田 徹
第6章 生産緑地の相続と持続的保全 竹内重吉
第7章 民間開設型農園の経営的特徴とコロナ禍の対応 山田崇裕・新保奈穂美・筧田 斎
第8章 都市農地活用型コミュニティガーデンの持続可能性 新保奈穂美
第9章 持続可能な都市農業の展望 八木洋憲

関連情報

編者プロフィール:
八木洋憲
農業経営学および農村計画学、とくに農業経営の戦略と組織、経営計画、都市・農村地域のグランドデザインを専門としている。著書に『土地利用計画論 - 農業経営学からのアプローチ』(2005年)、『イギリスの地域農業マネジメント』(2009年)『都市農業経営論』(2020年) など。2010年に日本農学会農学進歩賞、2022年に日本農業経済学会学術賞を受賞。
 
吉田真悟
農業経営学、都市農業を専門としている。著書に『都市近郊農業経営の多角化戦略』(2021年) など。2020年に東京大学而立賞、2022年に日本農業経済学会奨励賞などを受賞。
 
書評:
佐藤忠恭 (神奈川県農業技術センター) 評 (『農業経済研究』第95巻4号 2024年)
 
中塚華奈 (摂南大学) 評 (『農林業問題研究』第60巻2号 2024年)
https://doi.org/10.7310/arfe.60.93
 
石塚修敬 (農林中金総合研究所) 評 (『農業経営研究』第62巻第3号 2024年)
https://doi.org/10.11300/fmsj.62.3_94
 
セミナー・講演:
「著者が解説するセミナー&トーク・セッション『都市農業の持続可能性』」 (わくわく都民農園小金井 2023年8月3日)
https://koganei-kanko.jp/event/10796/
 
「都市農業の持続可能性と継続可能性」 (第12回都市近郊地域の農業・農地問題の研究会 2020年8月24日)
https://apcagri.or.jp/apc/lecture/6303

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