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カラーフィールド絵画と4人の人間

書籍名

絵画の解放 カラーフィールド絵画と20世紀アメリカ文化

著者名

加治屋 健司

判型など

368ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年9月29日

ISBN コード

978-4-13-016047-6

出版社

東京大学出版会

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絵画の解放

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本書は、20世紀半ばにアメリカで隆盛したカラーフィールド絵画の研究である。ヘレン・フランケンサーラー、モーリス・ルイス、ケネス・ノーランド、ジュール・オリツキー、フランク・ステラの5人の画家に焦点を当てて、カラーフィールド絵画がモダニズム美術批評、他の美術動向、そして現代文化とどのように関わったかを考察したものである。
 
第1章では、カラーフィールド絵画の画家とモダニズム美術批評家の関係を検討した。カラーフィールド画家はクレメント・グリーンバーグやマイケル・フリードなどのモダニズムの批評家に支持され、モダニズムの理想を体現する存在と考えられてきた。本章では、画家と批評家の関係、そして批評家同士の関係は多様であり、モダニズムは一枚岩ではなかったことを指摘した。カラーフィールド画家は、批評家との多様な関係を通じて、モダニズムの美術批評の形成に積極的な役割を果たしたことを明らかにした。
 
第2章では、これまでほとんど知られてこなかった、モダニズム以外の批評家によるカラーフィールド絵画の解釈を考察した。カラーフィールド絵画はモダニズム運動の外部にいた批評家によっても活発に議論され、連想効果や幻惑的な視覚性など、文化的な観点から多様な解釈がなされたことを明らかにした。
 
第3章では、カラーフィールド絵画と、ポップ・アート、オプ・アート、ミニマル・アートといった同時代の美術動向との関係を考察した。カラーフィールド絵画は、現在では対立するものとされるこうした美術動向と、非コンポジション、全体性、シリアリティ、物質性、プロセスといった関心を共有していたことを明らかにした。
 
第4章では、カラーフィールド絵画を文化的な視点から考察し、商品や複製技術との関連、住宅におけるインテリアデザインとしての利用などについて論じた。カラーフィールド絵画の鑑賞体験は、鑑賞者を包み込むような効果を持つという点で、ワイドスクリーン映画の鑑賞体験と比較される。カラーフィールド絵画は、1970年代、そのシンプルな色彩とデザインのためにデザイナーに模倣されて、芸術の領域を超えた製品が作り出されたことを明らかにした。
 
本書は、これまでもっぱらモダニズム美術批評の文脈で語られることの多かったカラーフィールド絵画の多様な豊かさを明らかにした研究である。カラーフィールド絵画が、絵画を従来の認識から解放し、様々な文化と折衝する場としての絵画の可能性を提示したものとして考え、カラーフィールド絵画を20世紀アメリカ⽂化の中に位置づけた。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 加治屋 健司 / 2024)

本の目次

序論 新たな出発に向けて
 
第1章 モダニズム美術批評との関わり――教導から協働へ
1 カラーフィールド画家とモダニズム美術批評家
2 クレメント・グリーンバーグとマイケル・フリード
3 グリーンバーグの美術批評の変化
 
第2章 多様な美術批評による解釈――個展の展覧会評を中心に
1 ヘレン・フランケンサーラー
2 モーリス・ルイス
3 ケネス・ノーランド
4 ジュールズ・オリツキー
5 フランク・ステラ
 
第3章 六〇年代美術とともに――ポップ・アート、オプ・アート、ミニマル・アート
1 同時代の展覧会と批評
2 非コンポジションという共通の関心事
3 カラーフィールド絵画に対するミニマリストの関心
 
第4章 アメリカ文化の中で――商品デザイン、複製メディア、インテリア・デザイン
1 具象的なイメージや事物とのつながり
2 複製技術の経験との比較
3 インテリア・デザインとしての役割
 
結論 絵画の解放
 

あとがき
画像クレジット
参考文献
索引

関連情報

書評:
芦田彩葵 評 (『アメリカ学会 会報』No.215 2024年7月30日)
https://www.jaas.gr.jp/wp23/wp-content/uploads/2024/09/%E4%BC%9A%E5%A0%B1215%E5%8F%B7.pdf
 
内山尚子 評 (『図書新聞』3630号 2024年3月9日)
https://toshoshimbun.com/news_detail?article=1709272822275x936448280662114300
 
大澤慶久 評 (表象文化論学会ニューズレター『REPRE』50号 2024年2月11日)
https://www.repre.org/repre/vol50/books/sole-author/04/
 
松井裕美 評 (『教養学部報』651号 2024年1月9日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/651/open/651-2-03.html
 
椹木野衣 評 (『朝日新聞』 2024年1月6日)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15832216.html
https://book.asahi.com/article/15103130
 
暮沢剛巳 評 (『週刊読書人』 2024年1月5日)
https://dokushojin.net/news/175/
 
諏訪敦 評 (『芸術新潮』889号 2024年1月)
https://www.shinchosha.co.jp/geishin/backnumber/20231225/
 
中島水緒 評 (『美術手帖』1100号 2024年1月)
https://bijutsutecho.com/magazine/series/s12/28544
 
書籍紹介:
「カラーフィールド絵画を美術と文化の交わりにおいて考察する」 (『美術の窓』485号 2024年2月)
https://www.tomosha.com/book/b640706.html
 
新刊紹介『絵画の解放 カラーフィールド絵画と20世紀アメリカ文化』 (鹿島美術財団ウェブサイト)
https://www.kajima-fa.or.jp/report/publishing/bk24-01/
 
インタビュー:
「著者インタビュー」 (『月刊アートコレクターズ』177号 2023年12月)
https://www.tomosha.com/book/b637659.html
 
関連イベント:
『絵画の解放 カラーフィールド絵画と20世紀アメリカ文化』刊行記念 加治屋健司氏×田中正之氏トークイベント (紀伊國屋書店新宿本店 2024年2月1日)
https://store.kinokuniya.co.jp/event/1704865507/
 
関連記事:
「美術史研究の中のカラーフィールド絵画 『絵画の解放――カラーフィールド絵画と20世紀アメリカ文化』の刊行によせて」 (『UP』614号 2023年12月)
https://www.utp.or.jp/book/b10044809.html

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