
書籍名
ことばと世界が変わるとき 意味変化の哲学
判型など
244ページ、四六判
言語
日本語
発行年月日
2024年2月20日
ISBN コード
9784798701899
出版社
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意味の変化はありふれた現象である。自然言語で単語の指すものが変わったり、その内包が変化したりするだけでなく、単語の意味は変わらずともそれらを含む文の意味が変わることもある。ありふれた、しかし興味深いこうした事象は、これまで言語学的にも言語哲学的にも考察されてきたが、決して言語だけに係わる問題ではない。世界の中で生じている変動を実際に映し出していることがあるのみならず、言葉をもって思考し生きている私たちのあり方そのものに深く関係してもいる。
本書では意味変化について、言葉の意味をめぐる考察に加えて、私たちの側つまり「心」において何が生じているのかを追究することで、そのメカニズムを説明している。現代哲学は意味の次元がもつある種の客観性を起点として展開してきたが、意味変化という現象は、意味論的に捉えられる次元を棄損ないし動揺させる現象である。この点は哲学的な問題となるが、その考察は「意味」とは何なのか、「自己」や「出来事」「事実」とは何かといった多くの問題と不可分となっており、本書もまた多くの哲学的問題との関係で論を進める。
本書の前半は「意味」のあり方をめぐり考察を進める。広く受け入れられた文脈主義、つまり「文脈」を用いた説明は、必ずしも万能ではない。それによれば文は、まずその性格が使用の文脈によって限定され、次に評価の状況に照らされて、異なる種類の決定を経ることでその意味を確定させる。とりわけ指標詞をめぐってよく知られるこの枠組みは強力だが、本書で詳しく論じるように、述語の意味変化や推論の仕方そのものが入れ替わる場合などをうまく説明できない。本書では、こうした現象を考えるために、言語哲学が依拠してきた十九世紀以降の西洋哲学とは異なる、東アジアの仏教思想における「空」や「心」をめぐる議論にまで参照を拡げて考察を進める。「意味」をめぐる思想史的拡がりを背景とする点は本書の独自性の一つである。
本書の最大の特徴は、自己のあり方が意味変化をもたらすことの説明にある。私たちの視野を制限している「心の壁」といった概念や、「視野の拡大」「厚みのある観点」といった概念がその説明を支えている。先の準備に基づき本書は後半部で、自己の変様と世界の変貌が同時に生じる様を現象学的に考察し、制限された様々な視野が重層的に重なりあうことでより複雑な厚みのある視野を生みだす様子を立ち入って論じている。私たちは複数の視野を使い分けるだけでなく他者との遭遇を通じて自己を変化させること、柔軟な自己のあり方が述語の変化や推論の変化を可能にしていること、こうした変化が世界の変貌として立ち現れること、などの説明によって、意味変化の問題に一定の解決を与えている。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 朝倉 友海 / 2024)
本の目次
I 意味変化という主題
1 意味をめぐる問い
言葉の「意味」とは――接続詞と動詞を手がかりに
浮かび上がる「意味」――単語から文へ
意味をめぐる考察の略史
物とも心とも異なるもの
2 意味は変化する
意味が変わるとはどういうことか
語の意味の変化
文の意味の変化
受け止め方や推論をめぐる意味変化
3 意味が通じないとき
意味変化と誤解
述定内容の変化
異なる文脈への気づき
II 事実へといたる意味
1 意味は幻なのかという疑い
消えてなくなるもの
言葉がもたらす間違い――論理分析の効力
空性を体得する
消えずに残るもの
2 確固たる意味について――存立・出来事・事実
構文的な対象性――「存立」か「実在」か
隠された出来事
出来事という存在者
たんなる意味から「事実の概念」への移行
3 事実のもつ客観性
事実を知る〈私〉
異なる者の認め合い
事実と意味変化
III 意味をもたらす自己
1 行為する自己の意識
〈私〉と〈私〉以外を分けるもの
自己への気づきと身体
世界への自己の刻印
自己表現としての行為
2 視野を拡げること
局所的な視野の単層性
局所的な視野の接続による拡大
広域性と「心の壁」
3 視野の揺れ動き
自己を揺るがす遭遇
述語の意味が変わる
揺れ動きつつ生きる
IV 世界の意味が変わるとき
1 厚みのある観点の獲得
重層性を増す経験
役割・立場をもつ
様相性を獲得する
2 自己へ問いを向ける自己
理想と生きる意味
自己を変える自己
観点がともなう意志
意味を与えるもの
3 自己の変様、世界の変貌
剥き出しの現実
意味が到来する
変様なのか開示なのか
おわりに
あとがき
関連情報
串田純一 評 (『図書新聞』3648号 2024年7月13日)
https://toshoshimbun.com/product__detail?item=1720671245978x186650835397902340
(『仏教タイムス』 2024年4月11日号)
https://www.bukkyo-times.co.jp/
研究発表大会:
哲学会第六十三回研究発表大会
ワークショップ「変化する意味—個人とコミュニケーションの観点から」 (哲学会 -The Society of Philosophy- 2024年11月2日)
https://www.l.u-tokyo.ac.jp/philosophy/tetsugakukai/meeting.html
2025年の大学入試・高校入試「国語」問題に使用:
立命館大学(2/2 全学統一方式)、愛知教育大学 (2/25 前期日程)、東京都立西高等学校(2/21)、東京都立戸山高等学校(2/21)、神奈川県公立高等学校 (2/20全日制・追検査)、千葉県公立高等学校(2/27 追検査)、日本女子大学付属高等学校、など