
書籍名
世界史のリテラシー ローマ教皇は、なぜ特別な存在なのか カノッサの屈辱
判型など
168ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2023年8月21日
ISBN コード
978-4-14-407302-1
出版社
NHK出版
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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「カノッサの屈辱」とよばれる歴史的事象は、いまから千年ほど前、1077年の西ヨーロッパで生起した重大事件だったが、この出来事に関しては、とにかく名称だけが先行しており、大事件として知られているわりには、なぜそのような事件が起きたのか、また歴史的にどのような意義があるかということについては、それほど知られていない。「屈辱」というからには、そのような状況に追い込まれた人物と追い込んだ人物がいたのであるが、彼らはいったい何者で、なぜそのような事態になってしまったのだろうか。
この謎を解き明かすためには、まずこの事件の概要をひととおり追っていく必要があるが、その営みはさらなる謎や不可思議を生じさせる。私たちはそれらの謎に対して、丁寧に答えを見出す作業を重ねていく必要があり、その作業を通じて「教皇はなぜ特別な存在なのか」という問いや、「教皇や皇帝が統べる中世ヨーロッパとはどのような時代だったのか」という疑問の答えを見出すこととなり、ひいては、空間的にも文化的にも現代日本とかけ離れた西欧キリスト教世界の骨組みを理解することができる。
第1章では「カノッサの屈辱」と叙任権闘争の全体像を解き明かしながら、中世における聖俗の権威者であった教皇と皇帝の関係がいかなるものであったか、そして両権力の相克はどう展開したかという問題を、教会改革という出来事の具体相を探究することで明らかにする。叙任権闘争終結後の12世紀から13世紀にかけての教皇権のあり方まで見通す。
次いで第2章では「教皇」という存在に焦点を当て、ローマ・カトリック教会の起源を、使徒ペトロとの関係や教皇選出の在り方などを検討しながら追究し、ローマという一都市の司教が教皇という他に類を見ない存在へとその性格を変えていく様子を描き出す。
そして第3章では、中世ヨーロッパをゆるがした大事件である「十字軍」をとりあげ、そこに至った社会的背景や十字軍を支えた精神性、そしてこの運動において教皇がいかなる役割を果たしていたかといった問題を追究する。ウルバヌス2世による十字軍発動はよく知られているが、それに先立つグレゴリウス7世による東方遠征計画についても目を向ける。
ここまでの探索で中世初期から中世中期まで、すなわち13世紀頃までの政治的・宗教的・社会的動向がおおよそはっきりするが、こうした理解の上に、最後の第4章では中世の終わり頃、つまり14世紀から16世紀初めまでの教皇や教会、そして世俗権力が直面していたさまざまな事象、たとえばアヴィニョン教皇庁時代や西方教会の大分裂、イタリア・ルネサンスなどに目を配りながら、中世のキリスト教がなぜ宗教改革に向かったのかという問いへの答えを試みる。
以上の検討を通じて、ヨーロッパの中世が「キリスト教と封建制度に縛りつけられていた何の変化もない暗黒時代」などではなく、あらゆる権力、あらゆる身分に属する人々が常に新たな潮流を生み出し、それによって社会が大きくゆさぶられていた、すぐれて動的な時代だったという理解にたどりつくこととなるだろう。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 藤崎 衛 / 2024)
本の目次
第1章 なぜハインリヒ4世は教皇グレゴリウス7世に屈したのか
事件の発端となった叙任権闘争/ハインリヒ4世の決意/中世の皇帝/教皇の接近/教会改革の時代/皇帝と教皇の決別/叙任権闘争の意義/ヴォルムス協約
第2章 「ローマ」と「教皇」はいかにしてむすびついたのか
「教会」の誕生/「ローマ教会」の成立/「カトリック」とは何か/「ローマ」と「カトリック」の結合/ローマ司教から教皇へ/教皇の権威/教皇選出のあり方
第3章 普遍的教皇権が成立させた「十字軍」発起
「十字軍」を理解するために/11世紀のヨーロッパ――安定がもたらした「終末」/「使徒的生活」を求めて/巡礼地エルサレム/グレゴリウス7世による「東方遠征プラン」/ウルバヌス2世の巻き返し/ウルバヌス2世が訴えたもの――クレルモン演説とその内容/「失敗」の十字軍――そのとき教皇は何をなしたか
第4章 中世キリスト教はなぜ宗教改革に向かったのか
「教皇庁」成立の意義/多忙な教皇/「国家」と「教会」の対立/アナーニ事件の衝撃とアヴィニョンの繁栄/西方教会の大分裂/教皇権の凋落/中世末期におけるローマ・カトリック――宗派化の予兆
関連情報
田中創 (東京大学大学院総合文化研究科・准教授) 評 (『教養学部報』第651号 2024年1月9日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/651/open/651-4-03.html
書籍紹介:
「「ローマ教皇」から、西欧キリスト教世界の骨組みを理解する【世界史のリテラシー:藤崎 衛】」 (NHK出版デジタルマガジン 2023年8月21日)
https://mag.nhk-book.co.jp/article/35658
関連講座:
「「ローマ教皇」から紐解く西欧キリスト教世界――「カノッサの屈辱」の歴史的意義」 (早稲田大学エクステンションセンター 2024年4月6日~6月8日〔全8回〕)
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/62880/
「ローマ教皇はなぜ特別な存在なのか」 (朝日カルチャーセンター 2023年10月4日~2024年1月13日〔全4回〕)
https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=1660188