東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙、教会の絵画

書籍名

NHKブックス ローマ史再考 なぜ「首都」コンスタンティノープルが生まれたのか

著者名

田中 創

判型など

256ページ、B6判

言語

日本語

発行年月日

2020年8月27日

ISBN コード

978-4-14-091265-2

出版社

NHK出版

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ローマ史再考

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「ローマの歴史とローマ皇帝の分かりやすい本ありませんか?」
 
これは、授業を終えたときに、時々勇気をもって教員に話しかけてくる学生がしばしば口にする質問。着任して以来、何度か繰り返された前期課程授業後の教室風景の一コマです。そして、いつも私は不本意ながら、このように答えていました。
 
「日本語だとちょっと一冊では難しいかもしれない。事典みたいな分厚い本はあるけれど。」
 
その分厚い本を一応紹介はするのだけれど、学生たちがそれで納得したのかどうか、ましてや読んでくれたのか、定かではありません。
 
ローマ史の扱う対象は長く、広く、そして、深いものです。しかし、これまでのローマ史研究は、すべての時代にわたって満遍なく同じように行われてきたわけではありません。そして、その中でも古代ローマ史にはいくつかの壁あるいは溝ともいうべき、研究対象はここまで、という境界が多かれ少なかれあります (それ自体は、責任を持った研究をするために仕方のないことです)。その一つが時代的なもので、西ローマ帝国が滅びた5世紀を境とするもの。他には、キリスト教史やローマ法史、ゲルマン王国史といった、研究対象に応じた見えない溝があります。これらは近代の学問領域の住み分けの結果生じているもので、それぞれの領域の伝統の蓄積も厚いため乗り越えるのは簡単なことではありません。
 
もちろん、私の授業はそれらすべてを要求するような高度なものではありませんが、私の研究関心上、どうしても西ローマ帝国の滅亡を挟んだ前後の時代を扱います。大抵は、古くはアウグストゥスぐらいに遡り、下ってはイスラーム台頭以後までは最低限扱います。教養の歴史としてはこれでも狭すぎるぐらいです。しかし、そのような関心から見ると、意外と「ローマ史」という枠組みでは適当な時代範囲を扱う文献がありませんでした。それでは、自分で書いてしまおう。これが本書成立の経緯です。
 
執筆にあたっては、そもそも「ローマ史」とは何か、という問いも常に頭にありました。国民国家の歴史を書くつもりは全くないのですが、いったい何が「ローマ」なのか、それはイタリアの歴史なのか、皇帝の歴史なのか、キリスト教会の歴史なのか? そのような迷いの中、後期ローマ帝国の歴史を分かりやすくするために焦点を当てるとよいのではないかと考えついたのが、コンスタンティノープルです。皇帝と町、イタリアと帝国、元老院とキリスト教会、軍隊と市民団。ある程度時間軸に沿って叙述が進みながらも社会の諸要素も理解でき、政治史の大略もつかめるのではないか……。私の試みがうまくいっているかどうか、関心のある方は是非ご覧になって、確かめてみてください。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 田中 創 / 2023)

本の目次

はじめに
 
第一章 コンスタンティノープル建都
第二章 元老院の拡大――コンスタンティヌスの発展的継承
第三章 移動する軍人皇帝の終焉
第四章 儀礼の舞台――変容する皇帝像
第五章 合意形成の場としての都
第六章 都の歴史を奪って
 
おわりに

関連情報

書評:
大谷哲 評 (『西洋史学』第274巻 pp. 168-171 2022年)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1520295740806061824
 
高橋英海 評 (『教養学部報』第625号 2021年2月1日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/625/open/625-2-3.html
 
本村凌二 評 (毎日新聞 2020年11月28日)
https://mainichi.jp/articles/20201128/ddm/015/070/015000c
 
山内志朗 評「衰退イメージを覆す」 (読売新聞オンライン 2020年10月18日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20201017-OYT8T50084/

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