東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

裂け目を表現した青い表紙

書籍名

裂け目に世界をひらく 「共生」を問う 東大リベラルアーツ講義

判型など

296ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2024年8月2日

ISBN コード

978-4-13-013155-1

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

裂け目に世界をひらく

英語版ページ指定

英語ページを見る

東京大学東アジア藝文書院 (EAA) は「東アジアからの新しいリベラルアーツ」の創出と実践を通じて新しい学問を構築することを目指す研究・教育組織です。EAAは毎年教養学部でオムニバス講義「30年後の世界へ」を開講し、順次書籍として刊行しています。このオムニバス講義は、主に学部1年生と2年生を対象として想定しているほか、東京大学の正規授業を動画としてインターネットに配信するサービスであるUTokyo OCWを通じて、広く一般の方々に対して向けられています。「30年後の世界へ」シリーズは、大学が社会と協働してよりよき未来、よりよき世界について共に想像をめぐらすためのプラットフォームです。
 
本書は2022年度に開講された「30年後の世界へ——「共生」を問う」をもとに構成されています。日本で生まれた「共生」ということばは、現在ではすっかり社会に根づき、最近では、東アジア漢字圏でも広く通用するようになりました。生態系危機や国際紛争、さらには日常生活におけるさまざまなコンフリクトなどにみられるように、人の社会と自然の関係をめぐる複雑で深刻な課題は「共生」の必要をわたしたちに迫っています。しかし、「共生」のかけ声は往々にして、何ものかの犠牲を容認するための言説の道具として使われることもあります。「共生」(symbiosis) は生物の世界の自然であると言えるかもしれませんが、それが道徳的な要請になったとたんに、強制を容認し排除を正当化し、そのための暴力すらを肯定しかねないものになることは、わたしたちの日常経験においても歴史経験においても明らかです。そこで本書は「共生」を単なる理想と見なすのではなく、その危うさを含めて、この概念を問い直すことから始めて、わたしたちがいかなる世界を望むべきなのかを多角的に論じています。
 
今日、「共生」は国際的な思想的課題になりました。ヨーロッパでは「コンヴィヴィアリティ」という概念のもとで地球的課題に応えようとする思想運動が起こっていますし、アジアでは老荘思想を核とした「共生哲学」を指向する研究グループが注目を集めているだけでなく、「共生/コンヴィヴィアリティ」を人類共通の普遍的価値にまで高めていこうとする学術ムーヴメントが生じています。本書は、洋の東西で繰り広げられる、国際的に最先端の人文学的関心に日本から応答しようとした試みでもあります。いや、ただ応用しようとしただけではなく、彼らと共に「共生」という、美しいかもしないが、同時に時に刃すらも持ちうるこの概念を、人類の希望に向かって問い質そうとする試みです。本書には、世界と共に、世界を変容させていこうとする学問のリアリティがつまっています。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石井 剛 / 2024)

本の目次

まえがき(石井 剛:東京大学大学院総合文化研究科・東京大学東アジア藝文書院院長)

I わかつ
第1講 共生をめぐる小さな自伝的物語り――トラウマを生きる(青山和佳:東京大学東洋文化研究所)
第2講 先住民族との共生(張政遠:東京大学大学院総合文化研究科)
第3講 他者と共生する「私」とは誰か――レヴィナスの思想を手がかりに(藤岡俊博:東京大学大学院総合文化研究科)
第4講 仏教から見た共生――私ひとりで幸せになれるのか?(柳 幹康:東京大学東洋文化研究所)

II わたる
第5講 自然に意義を見出す価値観を育てる――中国の自然保護活動における共生(呂 植:北京大学/[訳]片岡真伊:国際日本文化研究センター)
第6講 類を違える物と共に生きる世界――中国思想から問う新しい環境倫理(田中有紀:東京大学東洋文化研究所)
第7講 共生を求めること・共生を堪えること――魯迅を手がかりとして(王 欽:東京大学大学院総合文化研究科)

III ただす
第8講 いかにして共に生きるか――食べること、あるいは共同体のリズム(星野 太:東京大学大学院総合文化研究科)
第9講 共生と生政治(中島隆博:東京大学東洋文化研究所所長)
第10講 文学研究と「ポストクリティーク」――批判は共生のための技術になりえないのか?(村上克尚:東京大学大学院総合文化研究科)
第11講 有機体論的な隠喩をこえて、あるいはサイバネティクスのあとの哲学(ユク・ホイ:エラスムス大学ロッテルダム/[訳]伊勢康平:東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)

終講 よりよく生きるためのスペースを想像する(石井 剛)
あとがき(中島隆博)
 

関連情報

OCW – UTokyo Open Course Ware 2022年度開講
30年後の世界へ ― 「共生」を問う(学術フロンティア講義)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/course_11457/
 
著者インタビュー:
だいふくちゃん通信【特別インタビュー企画】東アジア藝文書院の石井剛先生に聞いてみた! -1- めんどくさそうだと思っていたOCWを5年間楽しく続けている理由 (OCW – UTokyo Open Course Ware 2025年1月31日)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/ocw_special-interview_eaa-ishii_1/
 
だいふくちゃん通信【特別インタビュー企画】東アジア藝文書院の石井剛先生に聞いてみた! -2- わたしたちの「コロナ禍」と「ポスト・コロナ」を振り返る (OCW – UTokyo Open Course Ware 2025年2月6日)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/ocw_special-interview_eaa-ishii_2/
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています