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赤い表紙、黄色い文字

書籍名

Education in the Asia-Pacific Region: Issues, Concerns and Prospects 62 Reforming Pedagogy in Cambodia Local Construction of Global Pedagogies

著者名

Takayo Ogisu

判型など

154ページ

言語

英語

発行年月日

2022年1月

ISBN コード

978-981-16-6749-7

出版社

Springer Singapore

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

Reforming Pedagogy in Cambodia

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本書Reforming Pedagogy in Cambodia: Local construction of global pedagogiesは、グローバルな「子ども中心の教授法」に基づく教育改革の流れを受けてカンボジアで実施されている教授法改革について、様々なアクターたちが「子ども中心」を通してどのような意味を構築しているのかを、社会文化的なアプローチによって明らかにしたものです。本書では、ローカルな教育思想や教育実践がグローバルに一定の方向へ収斂していっているという世界文化論的な立場に対して、むしろグローバルな言説の下でローカルには多様化が進んでいるという立場から、特にカンボジアのローカルな意味世界に接近し検討しています。具体的には、「国際教育協力を通して持ち込まれたグローバルな教育改革の流れが、ローカルな社会文化的な文脈の中でどのように具体化され、どのような変化をもたらしているのか」という関心から出発して、いまやグローバルな規範ともなりつつある「子ども中心の教授法」が、カンボジアにおいて教授法改革政策として構築され、教室レベルでの授業実践として具現化されていく一連のプロセスを追跡することを目指しました。プレイベン州において約一年間フィールドワークを実施し、この教授法改革に関わる様々なアクター (援助機関、教育省、州・郡教育局、校長、教師) に対する聞き取りおよび実際の授業への参与観察によってデータを収集し、子ども中心の教授法に誰がどのような解釈を加えてきたのかをグローバル−ローカルの垂直軸上に跡付けて検討しています。
 
本書では次のことが明らかになっています。まず、様々な援助機関や教育省関連部局がそれぞれの思惑を持ってこの教授法改革に参画していること、また、ローカルレベルでは「パチェカテ (クメール語でテクニックを表す語)」というカンボジアの社会構造や文化と密接に関連する学びの「論理」が存在し、子ども中心の教授法もこの「論理」に絡め取られていること、さらに、これらの事実が、教授法改革を難しくする要因となっていることです。これまで欧米を中心に蓄積されてきた研究では、カンボジアのような途上国において「子ども中心の教授法」が定着しないのは、教師の能力不足や物理的・文化的文脈の違いによるもの、つまりローカルな課題が阻害要因とされてきました。一方、本書が明らかにしたのは、教授法改革は単なる教授法の更新ではなく、長い時間をかけて形成され、日々の教育実践の中に埋め込まれている学びの「論理」に変革を迫る一大プロジェクトであり、教授法改革の困難さはまさにこの点にあることです。さらに、援助機関や教育省だけでなく教員や校長といったローカルなアクターが果たす主体的な役割に着目し、全てのアクターによる国際・国内情勢をふまえた賢い判断や交渉を通して、「子ども中心の教授法」について多様かつユニークな意味が構築されていくダイナミックなプロセスに迫っている点に新規性があります。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 荻巣 崇世 / 2024)

本の目次

Introduction
Chapter 1: Student-centeredness as a Global Pedagogy?
Chapter 2: Power and Pedagogy in Cambodia—A Historical Overview
Chapter 3: Whose Voice Got Reified
Chapter 4: Making Sense of Contradictory Policy Messages
Chapter 5: A Logic that Governs Teaching and Learning
Conclusion

関連情報

書評:
Mitsutoshi Takayanagi 評 (Educational Studies in Japan, 17, pp. 137–138 2023年)
https://doi.org/10.7571/esjkyoiku.17.137
 
前田美子 評 (『比較教育学研究』65号 pp. 122-124 2022年)
 
関連イベント:
NEW「【イベント】カンボジア教育セミナーシリーズ【第1回】カンボジア教育の現在と未来:「学びの質」向上に向けた挑戦」 (SALASUSU|東京大学 2024年11月13日)
https://salasusu.com/news/2588/
 
イベント動画:
「オンラインセミナー:カンボジア教師教育の軌跡と未来」 (主催:株式会社パデコ教育開発部 2023年8月7日)
https://padeco.education/seminar_cambodia/
 
関連記事:
「「アジアの学生たちが現場で学び考える」カンボジア・シェムリアップを訪ねて」 (『JOINT』No.44 2024年1月25日)
https://www.toyotafound.or.jp/activity/joint/katsudochi/no26.html

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