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書籍名

国際教育開発の研究射程 「持続可能な社会」のための比較教育学の最前線

著者名

北村 友人

判型など

240ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2015年4月30日

ISBN コード

978-4-7989-1294-3

出版社

東信堂

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国際教育開発の研究射程

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本書は、途上国の教育のあり方について多様な視点から検討を行う国際教育開発研究について、とくに比較教育学の知見を活用することで、その学問的な特性を明らかにしようとした試みである。
 
国際教育開発研究は、まだ「若い」学問領域である。なぜ「若い」かと言えば、教育学のなかでも新しい分野であり、いまだ十分な学術的知見が蓄積されていないためである。それは同時に、研究の可能性が非常に多く残されている分野であることも意味する。そうしたなか、日本では近年、急速な経済成長を遂げつつあるアジアや開発の可能性を秘めたアフリカにおける途上国の教育課題に対する関心が高まっており、国際教育開発研究を志す若手研究者たちも確実に増えている。
 
こうした「若い」学問領域である国際教育開発研究が、どのような課題を研究テーマとして捉え、それらの課題に関していかなる学術的分析を行おうとしているのかを、本書では提示している。加えて、21世紀に生きる私たちにとって大きな課題である「持続可能な社会」の実現へ向けて、教育がどのような貢献をすることができるのかについても考えてみた。そこで、持続可能な社会の担い手を育てるために、教育がいかなる役割を果たすべきかについて、著者なりに考察した結果が本書である。
 
本書は2部構成であり、第1部では国際教育開発研究の理論や方法論について論じている。比較教育学において国際教育開発研究が重要な位置を占めるようになってきた歴史的変遷を概観したうえで、途上国の教育に対する国際的な援助・協力の実践に国際教育開発研究の知見がいかにして活用できるかを論じた。その際、能力開発や政策評価の重要性や妥当性について検討を行った。
 
第2部では、第1部の議論を踏まえたうえで、持続可能な社会を実現するためには公共性や市民性を備えた人材の育成が不可欠であるという観点から、「持続可能な開発のための教育 (ESD)」という新しい教育の考え方について論じている。途上国における教育の援助・協力を推し進めていくなかで、このESDがいかにして教育実践として活かされるのかについて、カンボジアの「市民性の教育」、平和構築の際の「権利としての教育」という考え方、防災教育と情報ガバナンスのあり方などの具体的なテーマを通して検討してみた。
 
日本における国際教育開発研究が今後さらに充実していくことを期待し、この「若い」学問領域の「若い」一学徒として自分なりの考えを伝えたいという思いで本書をまとめた。「若い」からこそ未知の研究領域が大きく広がっている国際教育開発研究は、学術的な探究心をかき立てるという意味から魅力的な学問であると同時に、そこでの研究成果を実際の途上国における教育の援助・協力に反映させることができるという点でも、とても刺激的な分野である。こうした国際教育開発研究の面白さを、本書を通して感じていただければ、望外の喜びである。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 北村 友人 / 2017)

本の目次

はじめに
序章―国際教育開発研究の射程
第1部  国際教育開発研究の理論的検討―比較教育学の視点から
 第1章  政策科学としての比較教育学
        ― 国際教育開発研究における方法論の展開
 第2章  比較教育学における開発研究の位置づけ
 第3章  途上国における能力開発と教育の役割 ― 高等教育の国際協力を中心に
 第4章  途上国における教育政策評価と教育指標の活用  
 第5章  途上国の教育開発とジェンダー 
第2部  持続可能な社会を実現するための「市民性の教育」
 第6章  持続可能な開発のための教育(ESD)における「市民性の教育」 
 第7章  EFAとESDの相互補完的な関係 ―カンボジアにおける「市民性の教育」の事例
 第8章  平和構築のための国際教育協力に関する概念的考察 ―「権利としての教育」を考える
 第9章  国際協力リテラシーとグローバルな情報ガバナンス ― 東日本大震災の経験と防災教育のあり方
 第10章  日本の教育改革と新自由主義 ― 教育格差の拡大と市民性教育の可能性
おわりに
 

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