本書『シリアスゲーム』は、教育や社会的課題の解決にゲームを活用することに関心を持つ読者を対象とした入門書である。「シリアスゲーム」は、「社会的な問題解決のためのゲーム」として提唱され、従来の娯楽を超えたゲームの可能性を示す重要な枠組みとして注目されてきた。本書では、このシリアスゲームの成り立ちから発展の歴史、各分野での応用事例、新たな取り組みまでを包括的に解説している。
本書の執筆にあたっては、教育や社会的テーマでのゲーム開発や利用に関心のある学生、研究者、開発者、教育者といった幅広い読者層が、本書を入口にシリアスゲームやゲーミフィケーションの実践に取り組むための知識を楽しく学べるよう配慮した。大学等での教科書としての利用を念頭に、事例を交えながら分かりやすい説明を心がけた。また、研究者がさらに詳しい文献にアクセスできるよう専門的な議論を含みつつ、開発者にも有用な知見を提供するため、ゲームの開発方法や導入時の課題について具体的な事例を挙げて解説している。
シリアスゲームは、デジタルゲーム技術の進化と普及を背景に、2000年代前半にゲーム産業や学術界を巻き込む形で大きなムーブメントとして展開した。それまで教育的な文脈で使われることが多かったゲームが、社会的なテーマにも応用されるようになり、可能性が大きく広がった。さらに2010年代には、より広義の「ゲーミフィケーション」という概念が提唱され、ゲームの社会的応用が加速した。この間に、多くの研究者や開発者が協働し、資金やリソースが投入された結果、世界中で研究プロジェクトが立ち上がり、シリアスゲーム専門の開発会社や研究センターが設立されるなど、分野全体が飛躍的に進展した。
本書の特色は、シリアスゲームの社会的意義や国内外の動向を総括的に整理し、その後の展開についても包括的に論じている点である。現在では、わざわざ「シリアスゲーム」と銘打たなくても、ゲームやその技術が教育、医療、福祉、地域振興などさまざまな分野で応用され、社会課題解決のための手法として期待される時代になりつつある。本書では、こうした応用事例とその成果を示すとともに、過去の経験から学び、技術や社会の変化に対応した実践的な視点を提供している。
ゲームが社会で活用される範囲は、技術革新とともにますます広がると考えられる。本書が、読者が新しい挑戦を始めるための知識基盤として、また未来のシリアスゲームや類似するムーブメントの議論に貢献する一助となることを願っている。
(紹介文執筆者: 情報学環 准教授 藤本 徹 / 2024)
本の目次
1.1 シリアスゲームの定義と対象
1.1.1 「ゲーム」の概念的な定義
1.1.2 シリアスゲームの定義
1.1.3 シリアスゲームの範囲
1.2 関連用語との類似点と相違点
1.2.1 ゲーミングシミュレーション
1.2.2 エンターテインメントエデュケーション
1.2.3 エデュテインメント
1.2.4 シリアスゲームとともに提唱された概念・用語
1.2.5 ゲーミフィケーション
1.2.6 その他の関連用語
第2章 シリアスゲームの展開
2.1 シリアスゲームの歴史的展開
2.1.1 シリアスゲーム登場の発端とコミュニティ形成
2.1.2 初期の代表的事例
2.1.3 シリアスゲームが起こした変化
2.2 国内における展開
2.2.1 国内大手ゲーム会社の動向
2.2.2 産学連携によるシリアスゲーム開発の取組み
2.3 ゲーミフィケーションへの展開
2.4 シリアスゲームの残した成果
第3章 シリアスゲームのデザイン
3.1 シリアスゲームの一般的なデザイン論
3.1.1 ゲーム学習のフレームワーク
3.1.2 学習に効果的なゲーム要素
3.1.3 シリアスゲームの一般的なデザイン論のまとめ
3.2 学習領域に合わせたシリアスゲームの事例紹介
3.2.1 防災の学習領域のシリアスゲーム『StopDisasters!』
3.2.2 歴史の学習領域のシリアスゲーム『MissionUS』
3.3 学習領域に合わせた独自なデザインについての考察
3.3.1 二つの事例における学習領域ならではのデザイン
3.3.2 各学習領域におけるキー概念の抽出方法
3.4 学習領域に合わせた効果的なシリアスゲームのデザイン論
3.4.1 学習領域に合わせた効果的なシリアスゲームのデザイン手順
3.4.2 熟達者研究を活用した歴史領域のシリアスゲームのデザイン事例
第4章 シリアスゲームのメディア
4.1 シリアスゲーム研究におけるメディア
4.2 アナログゲームとデジタルゲームの特徴
4.3 シリアスゲームとメディアの特性:『ジョブスタ』を対象として
4.3.1 事例1:『ジョブスタ(アナログ版)』
4.3.2 事例2:『ジョブスタオンライン(アプリ版)』
4.3.3 事例3:『ジョブスタオンライン(ビデオ会議版)』
4.3.4 事例4:『ジョブスタ(ハイフレックス版)』
4.3.5 メディアの特性の影響についての考察
4.4 教育目的のシリアスゲームのメディア比較研究
4.5 メディア特性を活かしたシリアスゲームの展望
第5章 シリアスゲームの開発方法
5.1 シリアスゲーム開発方法普及の重要性
5.1.1 ソフトウェア工学とゲーム開発
5.1.2 一般的なゲーム開発とシリアスゲームの開発の相違点
5.1.3 シリアスゲーム開発プロセスSGDP
5.2 シリアスゲーム開発の実際
5.2.1 開発者自ら課題に対して調査を行う場合
5.2.2 ユーザーと専門家の協力を得て開発する場合
5.2.3 専門のSEと共同で開発する場合
コラム:シリアスゲーム命名クラーク・アプト博士
5.3 シリアスゲーム開発法の普及活動:シリアスゲームジャム
第6章 エクサゲーム
6.1 エクサゲーム研究の現状
6.2 エクサゲームの利用者と環境
6.3 事例1:『リハビリウム起立くん』
6.3.1 ゲーム概要
6.3.2 検証
6.4 事例2:『ロコモでバラミンゴ』
6.4.1 ゲーム概要
6.4.2 検証
6.5 事例3:『たたけ!バンバン職人』
6.5.1 ゲーム概要
6.5.2 検証
6.6 コミュニティ形成
6.6.1 施設内でのコミュニケーション
6.6.2 地域における健康運動サークル
6.6.3 スマホとクラウドを用いたオンラインコミュニティ
6.7 エクサゲーム研究の展望
第7章 地方創生とゲーム
7.1 企業と個人,双方の地方創生ゲーム
7.2 ご当地ゲームの広がり
7.3 ご当地ゲームの先行研究と先行事例
7.4 インディゲームが切り開いた「地方創生ゲーム」への展開
7.5 公費投入型地方創生ゲーム
7.5.1 種類
7.5.2 公費投入型地方創生ゲームの背景
7.5.3 開発事例
7.5.4 長所と課題
7.6 インディゲーム型地方創生ゲーム
7.6.1 事例1:『岐阜クエスト』
7.6.2 事例2:『まるがめクエスト』
7.7 産業育成型地方創生ゲーム
7.8 地方創生ゲームの未来
第8章 今後の課題と展望
8.1 各章の論点の整理
8.2 これまでの課題と展望を振り返る
8.2.1 シリアスゲームを軸とした異分野連携
8.2.2 ゲーム業界におけるシリアスゲームの可能性
8.2.3 ゲームに対する認識の社会的変化
8.3 これからの課題と展望
8.3.1 開発と導入のための方法論の充実
8.3.2 効果に関する知見の共有
8.3.3 支援の仕組みと導入のための基盤整備
引用・参考文献
用語索引
ゲーム索引
関連情報
https://www.coronasha.co.jp/mediatech/
自著紹介:
福山佑樹「シリアスゲーム(メディアテクノロジーシリーズ)」自著紹介 (『デジタルゲーム学研究』17巻2号p.39-40 2025年5月1日)
https://doi.org/10.9762/digraj.17.2_39
【マイブック】メディアテクノロジーシリーズ5 『シリアスゲーム』(藤本 徹 准教授) (東京大学大学院 情報学環・学際情報学府ホームページ 2024年6月13日)
https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/research/mybook20240613
書籍紹介:
大学でゲーム研究!?ゲームの技術を社会に活かすシリアスゲームとは?【日大古市研究室】 (SQOOLTVゲーム研究室 | YouTube 2024年6月3日)
https://www.youtube.com/watch?v=QyY6pD-IHnY
「シリアスゲーム」の成り立ちから開発方法、課題や展望まで事例を交えて解説。コロナ社がシリアスゲーム入門書籍を発売 (ゲームメーカーズ 2024年3月4日)
https://gamemakers.jp/article/2024_03_04_61339/
「シリアスゲーム」がコロナ社から出版されました (日本大学生産工学部数理情報工学科ホームページ 2024年3月2日)
https://www.su.cit.nihon-u.ac.jp/363-2/
受賞:
日本デジタルゲーム学会 2021年度 学会賞 (一般社団法人 日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN) 2022年3月4日)
https://digrajapan.org/?page_id=9086