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書籍名

放射線安全管理学

著者名

高橋 康幸 (監修)、杉野 雅人、細田 正洋 (編集)

判型など

276ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2023年11月

ISBN コード

978-4-524-20394-9

出版社

南江堂

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私たちはさまざまな環境や状況で放射線に遭遇しています。「太古から存在する自然の放射線」、「より良い人間活動や生活環境を求めて医療分野や産業分野等で便利に利用してきた人工の放射線や放射性物質」、「その結果として発生する放射性廃棄物」、「東電・福島第一原発事故で、拡散した放射性物質によって汚染された広大な環境」等々。そのような状況のなか、私たちは空港の荷物検査や病院での診療診断で放射線の便利さを享受している一方で、ときに、放射線被ばくの話題を耳にし、その影響やリスクに不安をいだくこともあります。歴史を遡れば、1895年のレントゲン博士のエックス線の発見以来、専門家たちは大変長い時間をかけて、どのように放射線の被ばくリスクを可能な限り低減して、便利な「放射線」の有効活用を続けられるか、知恵を絞り、対応、対策を考え、経験を積み重ねてきました。チョルノービリ (1986年) や福島 (2011年) などの原子力災害に伴う人や環境への影響にかかる社会的混乱も、その取り組みの歴史、いわゆるPDCAに大きな影響を与え、いまでも関係者の議論やチャレンジは続いています。
 
本書は、放射線利用の世界では最大の業界となっている「医療分野」の安全管理にターゲットを絞っています。レントゲン博士の当時の予言は的中し、医療分野での放射線の役割は大きく、130年経過した現在においても、同分野での最先端科学技術は「放射線」で支えられています。そのような背景のなか、社会は放射線安全管理分野に明るい、多くの優秀な医療技術者、いわゆる「診療放射線技師」を求めています。国は関連の養成所指定規則のなかで新たに「放射線安全管理学」を専門分野のひとつに位置づけ、いわゆる医療現場の安全管理の話題にとどまらず、放射線防護の基礎や理念、事故の対策や発生時の対応、問題解決能力などもスコープに導入しました。本書は主にこの目的に応えるべく、テキストとして丁寧に関連情報が整理されていますが、必ずしも医療技術メンバーのみならず、だれでも、医療施設を例題とした「放射線施設における放射線防護や完全管理に関する歴史と最新の状況」が理解できるよう、平易にまとめられています。この紹介文を執筆している私は、放射線防護の専門家として、第1章「放射線防護の基礎と基盤」を分担し、放射線防護が何を目指しているのか、放射線防護の体系とは何か、放射線防護の履行と実践に関する国内外の現在の重要な機関・組織の役割は何か、について解説をさせていただきました。ご参考ください。
 

(紹介文執筆者: 環境安全本部 教授 飯本 武志 / 2024)

本の目次

1 放射線防護の基礎と基盤(飯本武志
 A 放射線防護が目指すもの
  1 私たちと放射線との関係の理解
  2 放射線防護の目的と進化のプロセス
 B 放射線防護の体系
  1 体系の整理と理解
  2 放射線防護の3原則
 C 放射線防護の履行と実践に関係する国内外の機関・組織
  1 国際的な機関・組織
  2 国内の機関・組織
2 放射線防護に用いられる量と単位(細田正洋)
 A 「放射線の量」と「放射線量」
 B 物理量・防護量・実用量
  1 物理量
 C 放射線防護に関係する線量
  1 防護量
  2 実用量
3 放射線源からの被ばく(真田哲也)
 A 被ばくの形態
  1 外部被ばく
  2 内部被ばく
  3 全身被ばくと局所被ばく
  4 均等被ばくと不均等被ばく
  5 職業被ばく
  6 医療被ばく
  7 公衆被ばく
 B 自然放射線源からの被ばくの実態
  1 宇宙線
  2 大地放射線
  3 ラドン
  4 食品による内部被ばく
 C 人工放射線源からの被ばくの実態
  1 医療放射線
  2 原子力発電所
  3 核実験フォールアウト
4 放射線の被ばく影響とリスク(門前 暁,吉永信治)
 A 放射線被ばくの分類
  1 細胞生物学の概要
  2 組織反応と確率的影響
  3 早期障害と後期障害
 B 放射線被ばくによる組織反応
  1 個体レベルにおける組織反応としきい線量
  2 胚・胎生期における影響
  3 個体死
  4 組織反応・個体影響を修飾する因子
 C 放射線被ばくによる確率的影響
  1 発がんの概要
  2 白血病と固形がん
  3 遺伝性影響
 D 放射線被ばくに伴う健康へのリスク
  1 放射線のリスクとその指標
  2 放射線被ばくに伴うがんリスクの推定
  3 放射線のがんリスクを修飾する因子
  4 遺伝性影響のリスク
5 放射線源の安全取り扱い(安田成臣,山内浩司)
 A 種々の放射線源
  1 放射性同位元素線源
  2 放射線発生装置
 B 各種線源の安全取り扱い
  1 放射線の安全取り扱いの基本
  2 密封放射線源の安全取り扱い
  3 非密封放射線源の安全取り扱い
  4 医療施設における診療用放射線に係る安全取り扱い
 C 放射線の遮へいと遮へい用具
  1 重荷電粒子線の遮へい
  2 電子線の遮へい
  3 光子(電磁放射線)の遮へい
  4 中性子線の遮へい
 D 施設の遮へい計算
 E 放射性同位元素の運搬
  1 事業所内運搬
  2 事業所外運搬
6 環境の管理(齋藤美希,伊藤茂樹)
 A 管理区域の設定
  1 放射線施設の設置計画
  2 管理区域の基準
  3 管理区域の構成と構造
 B 空間線量率の測定
  1 測定場所の選定
  2 測定頻度
  3 測定・評価方法
  4 測定器の選択
  5 記録と保存
  6 測定器の点検・校正とトレーサビリティ
 C 表面密度の測定
  1 表面汚染の形態
  2 直接測定法と間接測定法
  3 測定器の選択
  4 サーベイメータの走査方法と測定
  5 ハンド・フット・クロスモニタ(HFC)
  6 除染の効果
  7 除去できない汚染の対策
  8 評価と記録
 D 空気中放射性同位元素の測定
  1 管理区域内の空気の管理
  2 作業場所の空気中RI濃度の測定と評価
  3 排気中RI濃度の測定と評価
 E 水中放射性同位元素の測定
  1 排水中放射能測定
  2 排水中放射能濃度の検出限界
  3 排水施設
  4 排水濃度の管理
  5 評価と記録
7 個人の管理(横山須美)
 A 個人被ばく線量管理の目的
  1 個人被ばく線量管理とは
  2 個人被ばく管理に用いられる実用量
  3 外部被ばく線量測定のための個人線量計の種類
  4 個人線量計の装着位置と測定に用いる実用量
  5 個人の外部被ばく線量の算定
  6 個人線量の記録および保存
  7 緊急作業時の個人線量管理
 B 内部被ばくの管理
  1 体内摂取量の算定方法
  2 内部被ばく線量算定方法
  3 個人用防護具
 C 健康診断
  1 健康診断の目的
  2 放射線業務従事者の健康診断項目
  3 健康診断の記録の保存
8 放射性廃棄物の処理(阪間 稔)
 A 放射性廃棄物の分類(気体,液体,固体)
  1 気体廃棄物
  2 液体廃棄物
  3 固体廃棄物
 B 放射性廃棄物の処理(気体,液体,固体)
  1 気体廃棄物の処理
  2 液体廃棄物の処理
  3 固体廃棄物の処理
 C 放射化物の安全取り扱い
9 放射線事故(辻口貴清,小山内暢)
 A 放射線事故/原子力災害
  1 放射線事故/原子力災害の定義
  2 海外での放射線事故事例
  3 国内での放射線事故事例
 B 放射線事故/原子力災害時の対応
  1 小規模事例
  2 大規模事例(被ばく・汚染への対応)
  3 放射線リスクコミュニケーション
  4 福島第一原子力発電所事故における規制の例(食品中の放射性物質に対する対応)
 C 被ばく医療
  1 被ばく医療とは
  2 日本の被ばく医療体制に関する歴史の変遷
  3 現行の被ばく医療体制
  4 原子力災害時の放射線防護に係る基準
10 関係法規(高橋康幸,杉野雅人)
 A 診療放射線技師法
  1 目的
  2 業務
  3 業務上の制限
 B 医療法
  1 目的
  2 届出
  3 管理者の義務
 C 放射性同位元素等の規制に関する法律(RI等規制法)
  1 目的
  2 定義
  3 管理区域
  4 許可届出使用者
 D 電離放射線障害防止規則
  1 基本原則
  2 定義
  3 管理
11 医療施設における放射線取扱主任者の役割(寺島真悟)
 A 個人の管理
 B 管理区域および場所の測定
 C 放射性廃棄物などの処理
 D 線源の管理
 E 放射線機器
 F その他
12 診療用放射線における放射線安全管理の実際(諸澄邦彦,西原貞光,高橋康幸,坂本 肇,五反田龍宏,高木昭浩,椎葉拓郎,亀澤秀美,川村愼二,勘﨑貴雄)
 A 診断参考レベル
  1 診断参考レベル(DRL)の制定経緯
  2 DRLs 2020の問題点
  3 DRL運用上の注意点
 B 各種モダリティにおける放射線防護
  1 一般X線撮影・ポータブル撮影・歯科用検査
  2 X線透視,血管撮影
  3 X線CT
  4 核医学検査
  5 放射線治療
  6 核医学治療
付録 第1種放射線取扱主任者試験問題・解説
参考文献
索 引
 

関連情報

シンポジウム:
第9回 環境保健衛生シンポジウム: 「私たちと放射線」
講義名:放射線防護の考え方1「我々と放射線の関係性」
講師:東京大学環境安全本部 教授 飯本武志氏 (東京都Tokyo Metropolitan Government | YouTube 2020年12月18日)
https://www.youtube.com/watch?v=iTXyutafiD4
 
第9回 環境保健衛生シンポジウム: 「私たちと放射線」
講義名:放射線防護の考え方2「放射線リスクから人と環境をまもる~リスクマネジメント~」
講師:東京大学環境安全本部 教授 飯本武志氏 (東京都Tokyo Metropolitan Government | YouTube 2020年12月18日)
https://www.youtube.com/watch?v=l0fnttotdNo
 
第9回 環境保健衛生シンポジウム:「私たちと放射線」
講義名:放射線防護の考え方3「放射線リスクから人と環境をまもる~防護の目的と実践~」
講師:東京大学環境安全本部 教授 飯本武志氏 (東京都Tokyo Metropolitan Government | YouTube 2020年12月18日)
https://www.youtube.com/watch?v=1fJ_jH0mJdU
 
第7回 環境保健衛生シンポジウム: 知っておきたい!身の回りの放射線 放射線はこんなところで使われている (東京都健康安全研究センター 2018年11月22日)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/10/11/05.html
 
講義アーカイブ:
2013年度開講:物質の神秘 ― その生い立ちから私たちの未来まで(学術俯瞰講義) 現代社会と物質
第10回 放射線のリスクと防護の科学 飯本武志 (OCW – Utokyo OpenCourseWare 2013年)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1134/
 
2015年度開講:宇宙・物質・社会-物質の成り立ちから応用まで(学術俯瞰講義) 放射能・放射線
第8回 放射能・放射線-さまざまな顔をもつ放射線とどう向き合うか 飯本武志 (OCW – Utokyo OpenCourseWare 2015年)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1354/
 
放射線教育支援サイト“らでぃ”
https://www.radi-edu.jp/
 
放射線等に関する副読本 > 放射線等に関する副読本掲載データ > 中学校生徒用
https://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/attach/1314159.htm
 

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