東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白いシンプルな表紙

書籍名

地力をつける 微分と積分

著者名

小林 俊行

判型など

278ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2024年9月20日

ISBN コード

9784000058896

出版社

岩波書店

出版社URL

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地力をつける 微分と積分

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本書『地力をつける 微分と積分』は、東京大学で「立ち見・床座り」の満員の教室で行った、解析学の講義の書き下ろしです。本講義を文科生を対象に開講した背景には、大きく分けて三つの動機がありました。
 
第一に、社会に出た際、数学の公式に安易に頼ったり、誤差の評価を軽視したりすることが、重大な判断ミスや危険につながるおそれがあると懸念していたこと。

第二に、定理や公式を暗記するのではなく、その背後にある思考プロセスを理解するという知的な訓練を通して、数学の芯をつかむ力を育み、生涯にわたって役立つ地力を養ってほしいと考えたこと。

第三に、文科の学生にも、数学の奥深さと豊かさを体験してほしいという願いがあったことです。
 
2. 本書のアプローチ
 
この動機に基づいて、本書は定理や公式の証明・計算技術に重点を置いた従来の教科書とは一線を画し、「微分や積分はいったい何を捉えようとしているのか?」という根本的な問いを軸に据えています。
 
この問いに答えるため、本書では、「桜の花びらの総枚数」「音律」「ハンマー投げの身体的負荷」「野山の地形」「国土の体積」の推定など、身近でイメージしやすい例を取り上げて、多角的に考察します。
 
前半では、無限や極限を扱う準備として「大きな数」「収束の速さ」「近似」を取り上げました。「知っているつもり」のことが、実はそれほど単純ではなく、自分の直観が揺さぶられ、広がっていくのを感じるでしょう。
後半は、微分・積分を取り上げます。「微分や積分は何をとらえようとしている概念か?」という問いを軸に、親しみやすい例を使いながら、「誤差評価」「微分方程式」「偏微分」「ラグランジュの未定乗数法」「重積分」の考え方を学びます。

3. 数学の活用と学びの目的
 
数学理論は、自然科学・工学・金融・AIなど、さまざまな分野で強力な道具として活用されています。しかし、理論や公式を無批判に受け入れ、その前提や限界を理解しないまま使うと、誤った判断や、意味のないデータに惑わされる危険もあります。
 
本書が目指すのは、「公式を使いこなす」ことよりも、「公式や定理を生み出す原理そのもの」を理解する力を育むことです。あわせて、身近な題材を通じて、仮定を吟味し、柔軟に視点を柔軟に切り替える思考力の大切さを伝えています。
 
4. 学びの「地力」を身につける
 
社会に出ると、学校では経験しなかったような問題に直面します。ものごとを根本から考える「地力」があれば、想定外の問題に遭遇したときの対応力の幅を広げてくれるでしょう。
 
数学においては、この力は、単なる計算技術ではなく、論理的な思考とそれぞれ個人の直観が両輪となって、ゆったりと概念の芯をつかむことで育まれます。将来、いざ必要となったときには、また勉強できるように、若いうちにその素地を作るお手伝いをしたいと思っています。
 
原理を見抜くプロセスを大事にし、自分で考え、自分で判断し、吟味することを大切にしてほしい。本書「地力をつける 微分と積分」は、そんな思いに共感してくれた受講生たちと共に作り上げた一冊です。
 

(紹介文執筆者: 数理科学研究科 教授 小林 俊行 / 2025)

本の目次

第1章 本書の目標
 1.1 数学の概念の芯をつかむ
 1.2 微分と積分は何をとらえているか
 1.3 本書の内容
 1.4 将来に役立つ思考力と吸収力を養うために
 
第2章 大きな数をとらえる
 2.1 大きな数を感覚的にとらえる方法
 2.2 フェルミ推定
 2.3 収束や発散の“速さ”
 2.4 誤差評価
 
第3章 極限に至る道
 3.1 単項式,多項式,一般の関数
 3.2 関数の全体を“見る”
 3.3 二項展開
 3.4 複利のお話
 
第4章 微分――局所をとらえる
 4.1 微分の定義
 4.2 指数関数の不思議な性質
 4.3 微分を感じる
 4.4 微分に関するいくつかの公式
 4.5 微分方程式と指数関数
 4.6 三角関数の微分と指数関数
 4.7 2階微分を感じる
 4.8 近似と誤差
 4.9 テイラー展開と剰余項
 
第5章 偏微分――多変数関数の微分
 5.1 多変数関数の微分をイメージする
 5.2 偏微分の定義
 5.3 偏微分を幾何的に理解する
 5.4 制約条件がある場合の極大・極小(最適化)
 
第6章 積分――「そこにある量」をとらえる
 6.1 細かく分けて積み上げる――面積や体積の求め方
 6.2 1変数関数の積分
 6.3 1変数関数の積分で表されるさまざまな量
 6.4 多重積分
 

関連情報

著者インタビュー:
巻頭言 (東大『数理NEWS』2024-2 vol.53 2025年6月)
https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/surinews2024-2HP.pdf
https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~toshi/texpdf/tk2025i-surinews2024-2.pdf
 
つながるコンテンツ 智のフィールドを拓く
東京大学 小林俊行 教授「立ち見・床座りでも聴きたい、数学の講義」 (Researchmap 2016年6月1日)
https://article.researchmap.jp/tsunagaru/2016/06/
 
小林俊行 数学科 教授 『大きな理論を0からつくる楽しさ』 (東京大学大学院理学系研究科・理学部 | YouTube 2015年7月3日)
https://www.youtube.com/watch?v=9U3wTvyuZQQ
 
インタビュー・井上学術賞受賞・小林俊行教授 無限次元の対称性の数学 ~根源から湧き出す泉の豊かさ~ (『教養学部報』540号 2011年7月6日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/540/open/B-3-1.html
 
書評:
<本の棚> 加藤晃史 評 (『教養学部報』666号 2025年10月1日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/666/open/666-2-02.html
 
上野健爾 評「数学の学び方を学べる本」 (日本評論『数学セミナー』通巻764号p.96 2025年6月号)
https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/9507.html
 
関連記事:
関口英子「数学の新理論の創始 小林俊行教授がフランスで名誉博士に」 (『教養学部報』639号 2022年10月3日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/639/open/639-01-1.html
 
受賞歴:
2022年ランス大学 (フランス) 名誉博士
2017年アメリカ数学会フェロー
2014年紫綬褒章
2010年度井上学術賞
2008年フンボルト賞
2006年度日本学術振興会賞
2006年大阪科学賞
2002年国際数学者会議(ICM)招待講演
1999年日本数学会賞春季賞

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