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カラフルな山と川の絵

書籍名

シリーズ「あいだで考える」 言葉なんていらない? 私と世界のあいだ

著者名

古田 徹也

判型など

192ページ、四六変

言語

日本語

発行年月日

2024年10月25日

ISBN コード

9784422130125

出版社

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言葉なんていらない?

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言葉はときとして、本物を不正確にしか表現できない影のように思える場合がある。たとえば、私が友人に、「このケーキ、あんまり甘くないね」と言ったとしよう。私はこの言葉を良い意味で言ったはずが、友人には、甘みが足りないと私が文句を言ったように聞こえてしまうことがある。こうした理解の食い違いは、短い文字や記号でやりとりをするSNSも――あるいは、この種のコミュニケーションにおいては特に――よく生じていると言える。
 
また、現在のSNS空間は、個人の言葉が瞬時に拡散するために、言葉を発した当人が想定していなかった大きな影響を社会に与えてしまうケースが跡を絶たない。たとえばある人が、あるお店の店員の態度に気分を害し、そのお店に対する抗議をSNSに投稿したとしよう。すると、その言葉がたくさん「リポスト」「シェア」「いいね」などをされて拡散し、そのお店に思いがけず非難が殺到したり、逆に、そのお店を支持する人々からの反論や非難が投稿者のほうに押し寄せたりすることがある。たとえ抗議の内容が事実に基づいているとしても、また、非難自体は理不尽なものでないとしても、勢いが度を超してひろがり、言葉を発した当人がその拡大を制御できない、という事態がしばしば生じているのである。
 
私たちは生活のあらゆる場面で言葉を用いており、言葉なしには生きることはほとんど不可能とも言える。しかし、まさにその言葉によって、しばしば生活にトラブルがもたらされる。言葉によるコミュニケーションは、どうにも不正確で不完全なものであるように思える。すなわち、言葉を通して他者と理解し合おうとすると、そこには誤解や無理解の余地、あるいは、想定しなかった影響を生み出す余地が、どうしても生まれてしまうように思われるのだ。
 
はたして言葉とは、私と私以外の人々とをつないでくれる「媒介物 (メディア)」なのだろうか。それとも、両者を隔てる「障壁 (バリア)」なのだろうか。私たちの可能性を広げてくれる希望なのだろうか、それとも、私たちを縛ったり振り回したりする制御不能な厄介者なのだろうか。そのどちらでもあるのだろうか。あるいは、どちらでもないのだろうか。
 
本書では、言葉というもののさまざまな側面を見ていく。その過程で、言葉を用いることにはどのような特徴や落とし穴があるか、言葉とどう向き合うべきかについて、いくつかの重要なポイントが照らし出されることになる。言葉はふだん、私たちの生活のなかに当たり前のようにあり、あらためて「言葉とは何か?」というふうに注意を向けることは少ない。慣れ親しんだ言葉を見直す作業からは、言葉に対する新しい見方が得られるだろう。そして、それはひいては、言葉とともにある私たちの日々の生活について、私たち自身について、新しい側面を知る機会となるだろう。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 古田 徹也 / 2025)

本の目次

キーワードマップ
 
序章 言葉はメディアか、はたまたバリアか
 
1章 言葉のやりとりはなぜ不確かなのか
 1節 私たちは日々「発話」している
 2節 なぜうまく伝わらないのか
 
2章 記憶の外部化と言葉の一人歩き
 1節 話される言葉と書かれる言葉の違い
 2節 プラトンの懸念は過去のものとなったか
 
3章 コミュニケーションの二つの方向性
 1節 遠く、多様な人々とのコミュニケーション
 2節 近く、限られた人々とのコミュニケーション
 
4章 言葉の役割を捉え直す
 1節 ここまでの結論と、ここからの課題
 2節 発話とは、物事のある面に関心を向けること
 3節 言葉を探し、選ぶことで、自分の思いが見つかる
 
5章 「言葉のあいだ」を行き来する
 1節 ひとつの言語を深く学ぶ
 2節 複数の言語に触れる
 3節 言葉は移り変わるもの
 
終章 言葉とは何であり、どこにあるのか
 1節 この本でたどってきた道筋
 2節 そこにある言葉を楽しむために
 
私と世界のあいだをもっと考えるための 作品案内
 

関連情報

[特設サイト] シリーズ「あいだで考える」
https://www.sogensha.co.jp/special/aidadekangaeru/
 
序章:
【シリーズ「あいだで考える」】古田徹也『言葉なんていらない?――私と世界のあいだ』の「序章」を公開します (創元社note部 | note 2024年9月27日)
https://note.com/sogensha/n/n619b97c78c4c
 
著者インタビュー:
「「すごい」濫用は思考停止、言葉は"待って"いい:『言葉なんていらない?』古田徹也氏に聞く」 (『東洋経済ONLINE』 2025年1月12日)
https://toyokeizai.net/articles/-/851353
 
「「考える」の大部分は「言葉を探索すること」が占めている——『言葉なんていらない?——私と世界のあいだ』著者・古田徹也さん インタビュー」 (本チャンネル | YouTube 2024年10月29日)
https://youtu.be/ukz86ZBsfxA?si=3PV9HTM4wO5QEgUr
 
書評:
「人と人つなぐ、遮る」 (『福島民友新聞』 2025年6月21日)
https://www.minyu-net.com/news/detail/2025062110391337662
 
今井亮一 評 (『週刊読書人』第3572号6面 2025年1月10日)
https://dokushojin.net/news/828/
 
イベント:
【イベント&オンライン配信(Zoom)】『言葉なんていらない?』(創元社)・『AIは短歌をどう詠むか』(講談社)刊行記念 古田徹也×浦川通トークイベント「しっくりくる言葉・わたし/あなたならではの短歌――「生きた言葉」とAI」 (代官山蔦屋書店 2024年12月13日)
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/43154-1156441007.html
 

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