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赤い表紙

書籍名

謝罪論 謝るとは何をすることなのか

著者名

古田 徹也

判型など

304ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2023年9月22日

ISBN コード

9784760155330

出版社

柏書房

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謝罪論

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本書は、謝罪という行為の全体像を描き取ることを通して、「謝るとは何をすることなのか」という問いに十全に答えることを目指すものである。たとえば、満員電車のなかで意図せず他人の足を踏んでしまったときの謝罪から、強盗の加害者による被害者への謝罪、さらには、差別的言動や医療過誤、戦後責任などをめぐる謝罪に至るまで、多様な事例を具体的に取り上げながら、「責任」「後悔」「償い」「赦し」「当事者」「誠実さ」といった、謝罪を構成する重要な概念同士の関係を解き明かしていく。
 
まず第1章では、謝罪を大雑把に〈軽い謝罪〉と〈重い謝罪〉に分類したうえで、慣習的なマナーに属するようなものから〈軽い謝罪〉、そして〈重い謝罪〉へと連なるスペクトラムのなかに、「謝罪」という名で括られる多様な行為が曖昧に位置づくことを確認する。その際には、日本語の「すみません」という言葉の多様な用法を手掛かりにするほか、この言葉をはじめとする日本語の謝罪の定型的表現と、「I’m sorry」をはじめとする英語の謝罪の定型的表現とを比較することを通して、謝罪の文化的差異についても検討する。
 
次に、第2章では、〈重い謝罪〉とは典型的にはどのようなものとして捉えられるかを分析ししつつ、この種の謝罪が我々の生活や社会においていかなる役割を果たしうるかについて、人間関係の修復、被害者の精神的な損害の修復、加害者の修復、社会の修復という観点から、それぞれ詳しく解明を行う。
 
以上の議論を踏まえて、第3章では、謝罪を包括的に定義しようとするいくつかの試みを批判的に検討することにより、すべての謝罪に共通する本質的な特徴を取り出して十全な定義を行うことは困難だという点を確認する。そして、謝罪の全体像を捉えるうえで重要なのは、そうした完全な定義を目指すのではなく、多くの謝罪に見出せる重要な特徴をひとつひとつ辿って見渡していくことであるという方針の下、実際にその諸特徴を具体的に挙げて検討を加える。特に重点的に分析するのは、謝罪には多くの場合「誠実さ」ないし「真摯さ」というものが要請されるということ、また、それゆえに、謝罪にはしばしばその誠意に関する懐疑がくすぶるというポイントである。
 
そして、第4章では、前章で挙げた諸特徴に当てはまらない非類型的な謝罪の事例を分析する。具体的には、他者から非難されていない行為について謝罪を行うケースや、そもそも自分がしていないことについて謝罪を行うケース (前の世代がしたことについて後の世代が謝るケース、等々)、それから、事態の真相が明確でない段階で当事者が謝罪を行うケースなどである。その過程で、謝罪のさらなる重要な特徴を浮き彫りにしていくほか、謝罪する主体や謝罪される客体の多様性および曖昧性、そして、謝罪の言葉や方針などがマニュアル化されることの何が問題なのか、という点にも踏み込んでいく。
 
最後にエピローグでは、謝罪の失敗を避けるうえでの実践的なヒントを本書の議論からいくつか導き出しつつ、本書の冒頭の「謝るとは何をすることなのか」という問いに対する答えを導き出す。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 古田 徹也 / 2024)

本の目次

プロローグ
 
第1章 謝罪の分析の足場をつくる
 第1節 〈軽い謝罪〉と〈重い謝罪〉――J. L. オースティンの議論をめぐって
 第2節 マナーから〈軽い謝罪〉、そして〈重い謝罪〉へ――和辻哲郎の議論をめぐって
 第3節 謝罪にまつわる言葉の文化間比較
 
第2章 〈重い謝罪〉の典型的な役割を分析する
 第1節 責任、償い、人間関係の修復――「花瓶事例」をめぐって
 第2節 被害者の精神的な損害の修復――「強盗事例」をめぐって [1]
 第3節 社会の修復、加害者の修復――「強盗事例」をめぐって [2]
 
第3章 謝罪の諸側面に分け入る
 第1節 謝罪を定義する試みとその限界
 第2節 謝罪の「非本質的」かつ重要な諸特徴
 第3節 誠実さの要請と、謝罪をめぐる懐疑論
 
第4章 謝罪の全体像に到達する
 第1節 非典型的な謝罪は何を意味しうるのか
 第2節 謝罪とは誰が誰に対して行うことなのか
 第3節 マニュアル化の何が問題なのか――「Sorry Works! 運動」をめぐって
 
エピローグ
 

文献表
あとがき
索引

関連情報

書評:
石原明子 評 (『週刊読書人』 2024年5月17日号)
https://dokushojin.net/news/557/
 
磯野真穂 評「その言葉あって生まれる始まり」 (『朝日新聞』2024年1月6日付 読書面21面) 
https://book.asahi.com/article/15103106
https://www.asahi.com/articles/DA3S15832214.html
 
粕谷文昭 評「謝罪という行為の複雑さを巡って」 (『表現者クライテリオン』p. 200 2024年1月号)
https://the-criterion.jp/mail-magazine/240205/
 
山内志朗 評「他者との関係、未来への起点」 (『日本経済新聞』 2023年12月2日付 読書面36面) 
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD226UU0S3A121C2000000/
 
苫野一徳 評「他者との起点という洞察」 (共同通信配信記事〔中部経済新聞、北國新聞、北日本新聞、山陰中央新報、福井新聞、熊本日日新聞など〕 2023年11-12月)
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/487417
https://chukei-online.com/article/OK0002312020b0103
https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/1246899
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1926213
 
『しんぶん赤旗』 2023年11月15日付 10面
 
武田砂鉄 評 (『週刊金曜日』 2023年10月27日号 (1446号) 書評欄) 
 
インタビュー:
「「ちゃんと謝る」とはどういうことなのか? 曖昧な「謝罪」の実態に迫る異色の一冊」 (『週刊プレイボーイ』 pp. 145-146 2023年12月4日号)
https://wpb.shueisha.co.jp/news/society/2023/11/28/121442/
 
書籍紹介:
『謝罪論』で学ぶ「謝罪」の難しさと奥深さ (テンミニッツTV 2023年12月12日)
https://10mtv.jp/pc/column/article.php?column_article_id=4040
 
関連記事:
古田徹也「謝罪とは本来、何であるべきか――「謝る」ことを哲学する」 (『月刊ガバナンス』 2024年8月)
https://shop.gyosei.jp/products/detail/12061
 
古田徹也「他者の心をめぐる哲学的探求」 (『TATTVA』Vol. 9 2023年)
https://btlg.store/products/tattva-vol-9-oct-2023-%E6%9C%80%E6%96%B0%E5%8F%B7
 
関連イベント:
古田徹也×磯野真穂『謝罪論』刊行記念トークイベント (ゲンロンカフェ|ゲンロン 2023年12月14日)
https://genron-cafe.jp/event/20231214/
 
古田徹也『謝罪論』×大谷弘『道徳的に考えるとはどういうことか』トークイベント (エスパス・ビブリオ|フィカル 2023年11月18日)
https://philcul.net/?p=1674
 
『謝罪論』刊行記念トークイベント「謝罪の社会学──いかにして謝罪は損なわれていくのか」[登壇者:古田徹也×石岡丈昇] (UNITÉ  2023年10月31日)
 
謝罪の迷宮――「謝る」って何をすること?『謝罪論』(柏書房) 刊行記念 古田徹也さん特別講演&サイン会 (紀伊國屋書店新宿本店 2023年10月6日)
https://store.kinokuniya.co.jp/event/1692434927/

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