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白とオレンジの表紙にデッサン人形の写真

書籍名

仲直りの理 (ことわり) 進化心理学から見た機能とメカニズム

著者名

大坪 庸介

判型など

304ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2021年10月10日

ISBN コード

978-4-908736-21-6

出版社

ちとせプレス

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仲直りの理 (ことわり)

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本書の目的は、「仲直り」について進化心理学的な観点から整理し理解するというものである。仲直りというのは、利害の不一致や誤解がもとで関係が悪くなってしまった相手との関係を修復する営みである。したがって、扱うテーマは極めて日常的なもので、あえて「進化」を冠する「心理学」を持ち出すことなく理解できそうなものだと思われるかもしれない。実際、心理学の論文データベースを検索してみると、進化とは無関係に多くの仲直りに関する知見が蓄積されている。
 
では、あえて「進化」を持ち出す意味はどこにあるのだろうか。それは仲直りの本質をはっきりと見せてくれるところにあると筆者は考えている。私たち人間の仲直りは複雑なプロセスで、そこには多くの要因が関わっている。例えば、本当は仲直りしたいけれど自分から謝るのは面子にかかわるからしたくない、本当は赦してもいいけれど「被害者という立場」をもう少し味わっていたいから赦さない等。これらは仲直りを理解するにあたって本質的な要因なのだろうか。本質ではなさそうな気はするけれど、仲直りの行方に少なからぬ影響を与えそうにも思える。一体、仲直りの本質的な要因と非本質的な要因をどのように仕分けたらよいのだろうか。
 
進化論的な視点は、こうした仕分けの問題を解決してくれる。本書で依拠する進化論的な視点とは、主に動物行動学と進化ゲーム理論である。動物行動学の知見は、多くの動物でどのような場合にケンカの後の仲直りが観察されやすいかを明らかにしている。種の垣根を越えて仲直りを促進する要因があれば、それは仲直りにとって本質的な要因であろう。
 
進化ゲーム理論も同様に仲直りの本質を理解する手がかりを与えてくれる。ゲームというのは少なくとも2人のプレイヤー、彼らのもつ戦略 (行動の選択肢)、各プレイヤーが選んだ戦略の組合せに対応した利得によって定義される。このように対人相互作用の骨格を明確にしておいて、仲直りに対応する行動が各プレイヤーにとって有利になるのか、有利になるとすればそれはどのような条件が必要なのか、こうした問いに対する答えは仲直りの本質そのものである。
 
これらの視点に基づけば、仲直りの本質は価値ある対人関係を失わないようにメンテナンスをするという点にある。例えば、多くのサルは、これまでに協力関係を築いてきた関係価値の高いパートナーとささいな原因でケンカした後、すぐに相手に近づいて仲直りをする。私たち人間も関係価値の高いパートナーのことは赦しやすいし、そういう相手に迷惑をかけると熱心に謝罪して赦してもらおうとする。本書では、このような本質を踏まえ、仲直りに関する心理学的知見のうち本質的なものを整理して提示している (つもりである)。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 大坪 庸介 / 2022)

本の目次

第1章 動物たちの仲直り
第2章 行動の進化の理
第3章 赦すことの理
第4章 和解シグナルの進化
第5章 謝罪の理
第6章 仲直りの至近要因
第7章 仲直りする力

関連情報

著者コラム:
きちんと謝れば対人関係はよくなるのか(大坪庸介:東京大学大学院人文社会系研究科准教授)#立ち直る力 (「こころ」のための専門メディア 金子書房 2021年12月18日)
https://www.note.kanekoshobo.co.jp/n/nd1475ab83a28
 
サイナビ!: 仲直り研究者を訪ねて (前半) (ちとせプレスホームページ 2021年10月15日)
http://chitosepress.com/2021/10/15/4569/
 
サイナビ!: 仲直り研究者を訪ねて (後半) (ちとせプレスホームページ 2021年10月20日)
http://chitosepress.com/2021/10/20/4582/
 
著者インタビュー:
【社会心理学】謝罪 脳は、本心からの謝罪を見極められる 大坪庸介先生 (こんな研究をして世界を変えよう 2020年)
https://www.sekaiwokaeyo.com/theme/l2590/
 
書評:
中川裕美 (東北福祉大学) 評 (『社会心理学研究』第38巻1号p.16 2022年7月31日)
https://doi.org/10.14966/jssp.B3801
 
活字散策 (『香粧品科学研究開発専門誌 フレグランスジャーナル』 2022年1月号)
https://www.fragrance-j.co.jp/book/b595581.html
 
坂井豊貴 (應義塾大学教授) 評「加害者を許せば被害者も癒える」 (『朝日新聞』 2021年11月13日)
https://book.asahi.com/article/14480448
 
書籍紹介:
私の読書日記 吉川浩満 (『週刊文春』 2021年11月4日号)
https://bunshun.jp/articles/-/49673

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