東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白と赤の表紙

書籍名

角川選書 シリーズ世界の思想 ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考

著者名

古田 徹也

判型など

360ページ、四六変形判

言語

日本語

発行年月日

2019年4月26日

ISBN コード

9784047036314

出版社

KADOKAWA

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考

英語版ページ指定

英語ページを見る

『論理哲学論考』(以下『論考』と略) は、現代を代表する哲学者ウィトゲンシュタインが、その生前に唯一刊行した哲学書です。この書物の目的は、哲学の問題すべてを一挙に解決するという、実に途方もないものです。彼は、「語りうること」と「語りえないこと」の間に境界を引き、哲学の問題が「語りえないこと」の領域に属すると証明することで、自身の目的を遂行しようと試みました。
 
この、哲学史上でもきわめて野心的な書物は、実際、現代哲学の最重要文献に数え入れられるものです。1920年代初頭に刊行されて以来、世界の学問や文化に多大な影響を与え、いまなお新たな読者を獲得し続けているのがこの書物なのです。
 
けれども、この書物は、記号論理学の道具立てを駆使し、特異な形式と文体で書かれているために、悪名高い難解さでも知られています。興味をもって手に取ってみたけれど、読んですぐに挫折してしまった、という人も大勢いるでしょう。
 
私が本書で目指したのは、ウィトゲンシュタインの哲学に馴染みがない人だけではなく、哲学や論理学に関する知識をほとんどもたない人も対象に、『論考』の「肝」の部分を理解できるような、文字通りの入門書をつくることです。
 
ただしそれは、本書が『論考』の当たり障りのない箇所をなぞっているだけのライトな読み物だということを意味するわけではありません。
 
深く解釈に入り込むことなしに、物事をかみ砕くことや明晰にすることはできません。したがって本書もまた、独自の踏み込んだ議論を多く含んでおり、『論考』全体を一貫した解釈の下に見渡す新たな読み筋を示そうと試みています。その意味で、本書は論争的な研究書でもあります。真の入門書であるためには、そうした冒険が不可欠なのです。
 
また、解釈の独自性以外にも、本書にはさまざまな特徴があります。まず、扱う箇所を思い切って絞っていること。たとえば、記号論理学の体系について一定の知識をもっていることを前提とする箇所は、本書では省略しています。
 
その代わりに、『論考』全体の趣旨を理解するために最低限おさえておくべき文章や用語については、できるかぎり一つ一つ丁寧に、詳しく解説しています。また、より内容が理解しやすくなるよう、『論考』の論述の順序を部分的に組み替えたりもしています。それらの手当てによって、本書を冒頭から順に読み進めながら『論考』の勘所を徐々につかんでいく、という読書体験が可能になるよう工夫しました。ちょうど、大学の講義を受けるような感覚で、ページをめくっていくことができるはずです。
 
おそらく、『論考』で最も有名な言葉は、「語りえないことについては、沈黙しなければならない」という、この書物の締めくくりの警句でしょう。本書の読者は、330ページ目でこの言葉に行き当たることになります。この言葉がどのような思考の末に刻まれたものであったのかを、皆さんが本書とともに楽しんで探究してくれること、それが著者としての願いです。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 古田 徹也 / 2019)

本の目次

はじめに
凡例
人と作品
『論理哲学論考』
§0 『論理哲学論考』の目的と構成
§1 事実の総体としての世界、可能性の総体としての論理空間
§2 事実と事態、事態と物 (対象)
§3 不変のものとしての対象、移ろうものとしての対象の配列
§4 現実と事実
§5 像と写像形式
§6 像とア・プリオリ性
§7 思考と像、像と論理空間
§8 命題と語
§9 名と要素命題
§10 解明と定義
§11 シンボル (表現) と関数
§12 日常言語 (自然言語) と人工言語
§13 個別性の軽視、個別性の可能性の重視
§14 言語の全体論的構造節
§15 「言語批判」としての哲学
§16 命題の意味の確定性と、命題の無限の産出可能性
§17 『論考』の根本思想
§18 否定と否定される命題の関係
§19 哲学と科学
§20 要素命題とその両立可能性 (相互独立性)
§21 真理表としての命題
§22 トートロジーと矛盾
§23 命題の一般形式1
§24 推論的関係と因果的関係
§25 操作、その基底と結果
§26 操作の定義
§27 世界のあり方と、世界があること
§28 独我論と哲学的自我
§29 命題の一般形式2
§30 論理学の命題および証明の本質
§31 説明の終端
§32 意志と世界
§33 永遠の相の下に
§34 投げ棄てるべき梯子としての『論考』
§35 『論考』序文
コラム1 記号論理学
コラム2 倫理学講話
文献案内
用語の対照表
あとがき
索引
 
 

関連情報

著者インタビュー:
インタビュー古田 徹也 「古典をもっと、ずっと開かれたものに」 (カドブン 2019年6月21日)
https://kadobun.jp/feature/interview/178.html

試し読み:
[試し読み(1)] これならわかる! 『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』<はじめに> (カドブン)
https://kadobun.jp/trial/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%88%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3/761.html
 
[試し読み(2)] 『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』<§0 『論理哲学論考』の目的と構成> (カドブン)
https://kadobun.jp/trial/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%88%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3/762.html
 
[試し読み(3)] 『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』<§1> 物が集まっただけでは世界にならない (カドブン)
https://kadobun.jp/trial/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%88%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3/763.html
 
書評:
齋藤元紀 評 「2019年上半期の収穫から」 (『週刊読書人』第3299号 2019年7月26日)
https://dokushojin.com/article.html?i=5715
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています