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白い表紙、薄黄色の抽象的なイラスト

書籍名

このゲームにはゴールがない ひとの心の哲学

著者名

古田 徹也

判型など

304ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2022年10月13日

ISBN コード

978-4-480-84327-2

出版社

筑摩書房

出版社URL

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このゲームにはゴールがない

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心とは何でしょうか。なぜ我々は心をもつのでしょうか。なぜ、我々には心が必要なのでしょうか。本書は、現代を代表する哲学者ルートウィヒ・ウィトゲンシュタインと、彼に深く影響を受けたアメリカの哲学者スタンリー・カヴェルの議論を跡づけながら、懐疑論を手掛かりにして、人間の心というものの本質的な特徴を探究するものです。
 
まず第一章では、他者の心についての懐疑論の内実を、外界についての懐疑論との比較の下で輪郭づけます。その過程で、〈他者が心のなかで本当は何を感じたり考えたりしているか〉という点をめぐる懐疑論こそが、生活上の具体的な煩悶としばしば綯い交ぜになったかたちで展開される、最もリアルで深刻なタイプの懐疑論であることを確認します。
 
そのうえで第二章では、懐疑論の急所を突くウィトゲンシュタインの議論と、それに対するカヴェルの解釈の道筋を辿ります。まず確認するのは、ウィトゲンシュタインが独自の驚くべき視角から懐疑論の問題に切り込んでいるということです。彼は懐疑論に対して、我々は他者の心を確実に知ることができる、という風に反論するのではありません。そうではなく、「私は自分の心中は確実に知っているが、他者はそれを推測することができるだけだ」という物言い自体に混乱が見られると批判するのです。この章では、「規準」および「文法」という、ウィトゲンシュタインの議論で頻出する概念をめぐるカヴェルの解釈を追跡しながら、彼らの懐疑論批判のポイントを浮き彫りにしていきます。
 
次に第三章では、まず前半において、懐疑論の言葉は実のところ主張にまで達しておらず、自分自身に対してさえ意味を明確にできていない、というカヴェルの議論を見ていきます。そして後半では、にもかかわらずカヴェルが、ウィトゲンシュタインの「規則のパラドックス」などを参照しつつ、懐疑論のある種の自然さを強調している次第を追跡します。カヴェルは、懐疑論をたんなる混乱した思考の産物として片づけるときに見落とされるある極めて重要な論点を指摘しています。それが何かを明らかにすることが、本節の最大の目標になります。
 
最後に第四章では、他者の心について、あるいは、人間の心というもの一般について、ウィトゲンシュタイン自身が何を論じ、何を示唆しているのかを探ります。その道筋は、他者の心についての懐疑論はそもそも乗り越えられるべきなのか、また、人間の心の特徴とはどのようなものであり、それがなぜ我々に必要なのかを問うものとなります。
 
こうして本書は、自然科学とも社会科学とも異なる観点から、人間の心というものに迫っていきます。また、同時に、人間が互いにかかわり合いながら生きるということの根本的な意味を問い直していくことになります。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 古田 徹也 / 2023)

本の目次

はじめに
 
第一章 他者の心についての懐疑論
 第一節 「秘密の部屋」としての心
 第二節 外界についての懐疑論
 第三節 日常の生活に息づく懐疑論
 
第二章 懐疑論の急所
 第一節 懐疑論の不明瞭さ、異常さ、不真面目さ
 第二節 規準
 第三節 文法
 第四節 懐疑論は混乱した思考の産物なのか
 
第三章 懐疑論が示すもの
 第一節 懐疑論の真実、あるいはその教訓
 第二節 生活形式への「ただ乗り」としての懐疑論
 第三節 懐疑論への「自然」な道行き
 第四節 「人間的なもの」の発露としての懐疑論
 第五節 悲劇としての、他者の心についての懐疑論
 第六節 「他者を受け入れる」とは何をすることか
 
第四章 心の住処
 第一節 演技の習得
 第二節 子どもが言語ゲームを始めるとき
 第三節 「このゲームにはゴールがない」
 第四節 他者とともにあることの苦痛と救い

関連情報

書評:
伊藤迅亮 評、酒井健太朗 評、冨塚亮平 評「フィルカル・リーディングズ」 (『フィルカル』Vol.8, No. 1 2023年4月30日)
https://philcul.net/?p=1574
 
本からコミュニケーションが生まれる、ブックカルチャーの新拠点に:三鷹「本と珈琲の店」UNITÉ(ユニテ) (じんぶん堂 2023年2月13日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14830992

雪下まゆ 評「つぶやきでは語り切れないこと」 (NEUT magazine 2023年1月31日)
https://neutmagazine.com/mayu-yukishita-003
 
「揺らぎ、戯れ続ける心」 (中部経済新聞 2023年1月1日)
https://www.chukei-news.co.jp/news/2023/01/01/OK0002301010e01_02/
 
「揺らぎ、戯れ続ける心」 (北國新聞 2023年12月18日)
https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/941011
 
「人と人の間に「心」は育つ」(沖縄タイムス 2022年12月17日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1074745
 
「揺らぎ、戯れ続ける心」 (山陰中央新報デジタル 2022年12月17日)
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/313454
 
関連記事:
[はじめにより]「ある日、娘が不透明になった」 (じんぶん堂|好書好日 2022年12月7日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14774861
 
インタビュー:
「他者の心をめぐる哲学的探求」 (『tattva』Vol. 9 2023年10月)
https://bootleg.co.jp/news/2023/09/11/tattva-vol9/
 
「哲学と文学が重なるとき――ひとの心はわかるか」 (『すばる』 2023年10月号)
https://www.bungei.shueisha.co.jp/news/subaru-202310/
 
「半透明を受け入れる」 (『週刊文春』 2023年6月29日号)
https://bunshun.jp/articles/-/63784
 
トークイベント:
古田徹也『このゲームにはゴールがない』(筑摩書房) 刊行記念 古田徹也×古賀及子トークイベント 「卵焼きから始まる哲学」 (代官山蔦屋書店+オンライン 2022年10月18日)
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/28986-1721130918.html
 
『このゲームにはゴールがない』・『聞く技術 聞いてもらう技術』(筑摩書房) 刊行記念 古田徹也×東畑開人トークイベント 「心はどこにあるのか」 (代官山蔦屋書店+オンライン 2022年12月20日)
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/30237-1652421118.html
 
『このゲームにはゴールがない』(筑摩書房)『生成と消滅の精神史』(文藝春秋) 刊行記念 古田徹也×下西風澄トークイベント「心と言葉をめぐるダイアローグ」 (UNITÉ+オンライン 2023年3月26日)
https://conserva.hatenadiary.jp/entry/2023/03/26/001146

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