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白い表紙

書籍名

NHKブックス No.1266 はじめてのウィトゲンシュタイン

著者名

古田 徹也

判型など

320ページ、B6判

言語

日本語

発行年月日

2020年12月25日

ISBN コード

978-4-14-091266-9

出版社

NHK出版

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はじめてのウィトゲンシュタイン

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本書は、現代を代表する哲学者ウィトゲンシュタインにはじめて出会う人のための、文字通りの入門書です。彼の生涯の遍歴と思考の変遷を、ともに詳しく跡づけながら、その哲学の全体像を描いていきます。
 
ただし本書は、ウィトゲンシュタインの各著作や各テーマを網羅的に広く薄く紹介していくものとは異なります。網羅的に彼の各著作や各主題の概説を行っている便利な本はすでに何冊も存在します (そのいくつかは本書の文献案内で紹介しています)。本書はむしろ、彼の議論に通底する核心部分をじっくりと跡づけるものです。
 
一見すると極めて錯綜した彼の叙述について、それを支えている骨格に迫ること。そうして、多彩に展開し細分化していく彼のアイディアの根幹を浮き彫りにすること。その一連の作業を通じて、ウィトゲンシュタイン哲学という豊穣な森――しかし、容易に人を迷子にさせる謎めいた森――を歩き回るための略図とコンパスを提供するのが、本書の狙いです。
 
なかでも本書は、いわゆる「前期ウィトゲンシュタイン」と「後期ウィトゲンシュタイン」の対比に焦点を当てています。彼の哲学は、『論理哲学論考』に代表される若き日の思考 (前期ウィトゲンシュタイン) と、壮年期にあらためて彼が紡ぎ出した思考 (後期ウィトゲンシュタイン) とに大別されます。では、この二種類の思考には具体的にどのような違いがあるのでしょうか。彼は、自分のかつての思考をなぜ、どのように乗り越えようとしたのでしょうか。本書はこの基本的な問題の探究を軸に展開します。
 
前期から後期へ――その変化の内実を知ることは、たんに彼個人の哲学を理解するために不可欠であるだけではありません。私たち自身が世界を理解しようとするとき、どのような方向に向かう傾向があるのか。どのような落とし穴に嵌りがちなのか。自分たちの物の見方や考え方それ自体を反省するための根本的なポイントを、私たちはウィトゲンシュタインの思想的転回を追うことで確認できるでしょう。
 
本書を読むために、哲学やウィトゲンシュタインについての前提知識は必要ありません。彼の思考を追体験することではじめて気づかされる私たち自身の姿、思いがけず照らし出される世界の相貌というものが、確かに存在します。本書はそれを浮き彫りにするための一書です。
 
なお、本書は、各章の間に合計3つの文献案内を配置し、ウィトゲンシュタインの著作の生成プロセスを詳しく解説したうえで、彼の重要な遺稿および関連する参考文献 (書籍、論文) を数多く紹介しています。そのため、ウィトゲンシュタイン研究を志す方にも資する一冊になっていると思います。さらに、アーカイブ管理者のMichael Nedo氏と直接交渉し、ウィトゲンシュタインのあまり知られていない写真も本書に数多く収録することができました。哲学自体に馴染みのない方も含めて、多くの方が本書を手に取り、ウィトゲンシュタインの哲学に触れる機会となることを願っています。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 古田 徹也 / 2021)

本の目次

序章 嵐のなかの道標
 
第一章 沈黙への軌跡――前期
1節 『論理哲学論考』が世に出るまで
2節 『論理哲学論考』とはどのような書物か
3節 語りえないものたち (1) ――論理
4節 語りえないものたち (2) ――存在
5節 語りえないものたち (3) ――独我論、実在論
6節 語りえないものたち (4) ――決定論、自由意志論
7節 語りえないものたち (5) ――価値、幸福、死など
8節 使い捨ての梯子としての『論理哲学論考』
 
文献案内 (1) 著作の生成プロセス、前期にまつわる文献
 
第二章 世界を見渡す方法――後期
1節 哲学への回帰の道
2節 ケンブリッジへの帰還
3節 「像」による幻惑としての哲学的混乱
4節 哲学的混乱の自覚を促す道
5節 前期ウィトゲンシュタインが囚われた「像」
6節 規則のパラドックス、言語ゲーム、家族的類似性
7節 「形態学」という方法論――ゲーテからウィトゲンシュタインへ
8節 創造的、臨床的、触発的
 
文献案内 (2) 後期にまつわる文献
 
第三章 鼓舞する哲学
1節 晩年に向かう10年の歩み
2節 後期の主題の断片 (1) ――心
3節 後期の主題の断片 (2) ――知識
4節 後期の主題の断片 (3) ――アスペクトの閃き
5節 鏡と勇気
6節 嵐に立つ者たちに
 
文献案内 (3) 講演、日記、伝記、概説
 
あとがき
 
人名索引

関連情報

書評:
野村恭史 (北海道大学大学院文学研究院助教・現代分析哲学・言語哲学) 評「われわれの探究へと「鼓舞する哲学」――主著と草稿、人生と哲学の展開を重ね合わせ記述」 (『週刊読書人』 2021年4月9日号)
https://dokushojin.com/review.html?id=8098
 
書籍紹介:
斎藤哲也「難しすぎない、最後まで読める - 哲学できる 初心者本20選 (『プレジテント』 2021年10月29日号)
https://presidentstore.jp/category/MAGAZINE/012121.html

新刊コーナー (京大生協『綴葉』No.398 2021年6月10日)
https://www.s-coop.net/about_seikyo/public_relations/images/teiyo-398.pdf

「ウィトゲンシュタインの全貌と「急所」 哲学者・古田徹也さん、初学者向け解説本」 (朝日新聞夕刊・特集面 2021年6月2日掲載)
https://book.asahi.com/article/14364514
 
池田喬 (明治大学文学部准教授) 「ウィトゲンシュタインがまるで目の前で語り出したかのよう」 (NHK出版: 本がひらく 「本がひらく」2021年4月28日)
https://nhkbook-hiraku.com/n/n37e5facc355b
 
イベント:
【フェア】『はじめてのウィトゲンシュタイン』(NHK出版)刊行記念 古田徹也選書フェア「言葉の世界を探検する」 (蔦屋書店1号館1階 2021年6月1日~7月31日)
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/20140-1358220517.html
 
古田徹也 (聞き手 = 斎藤哲也) 一生役立つ哲学入門 ──『はじめてのウィトゲンシュタイン』刊行記念 (ゲンロンカフェ 2021年3月24日)
https://genron-cafe.jp/event/20210324/
Vimeo動画アーカイブ
https://vimeo.com/ondemand/genron20210324
 
古田徹也×大谷弘「なんとか生きるためのウィトゲンシュタイン」『はじめてのウィトゲンシュタイン』(NHK出版) 刊行記念 (本屋B&B 2021年2月26日)
https://bookandbeer.com/event/20210226/
 
講座:
オンライン講座: ウィトゲンシュタイン入門 (朝日カルチャーセンター 2021年7月10日、8月7日、9月4日)
https://www.asahiculture.jp/course/shinjuku/efbab28c-8336-3955-f093-6082b64c5c06
 

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