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白い表紙にテントの住居の写真

書籍名

エリアスタディーズ 206 別冊 パレスチナ/イスラエルの〈いま〉を知るための24章

著者名

鈴木 啓之、 児玉 恵美 (編著)

判型など

324ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2024年5月15日

出版社

明石書店

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ガザ情勢の緊迫化によって、パレスチナ/イスラエルの日常は奪われた。しかし、紛争の前の日常は、取り戻すべき平穏な日々だったのか。防空シェルターが完備されたイスラエルの住宅や公園、イスラエルの軍事検問所での渋滞、そしてガザ地区での封鎖下の生活など、すべてがパレスチナ問題の〈いま〉の歪さを物語っている。
 
明石書店の定番シリーズ「エリアスタディーズ」のなかで、初めて「別冊」として編まれたのがこの本である。すでに『パレスチナを知るための60章』(臼杵陽・鈴木啓之編) と『イスラエルを知るための62章』(立山良司編) が刊行されているが、ガザ情勢を扱うには新たな本が一冊必要だという、出版社の覚悟が感じられる。実際に、ガザ地区での人道危機は2023年10月の段階ですでに「過去最悪」であった。まったく情勢の改善の兆しが見られない中で編まれたのが本書である。
 
この本には、34人の著者が章やコラムで参加している。NGO職員や国連職員、元外交官など実務家による章では、1990年代から現在まで、およそ30年にわたる歪なパレスチナ/イスラエルでの日常が描き出される。特に日本の政府や市民社会からどのような働きかけがパレスチナ/イスラエル社会に行われてきたのか、国際支援のあり方はどうあるべきか、この先どのように関わるべきかに関心を持つ読者には、こうした章が示唆を与えてくれるだろう。国連パレスチナ難民救済事業機関 (UNRWA) の日本人職員らによる寄稿は、アメリカ政府とイスラエル政府によってUNRWAへの政治的攻撃の最中に書かれた。ぜひそうした時代的背景にも意識を向けて読み解いてほしい。また、緊急人道支援の傍らに寄稿してくれた著者もいる。現場の絶望感を写し取ったような筆致に、編者ながら強い衝撃を受けたことを覚えている。
 
ガザ情勢がなぜ「過去最悪」と言われるまでに緊迫化したのかという背景を知りたい時には、研究者による章が参考になる。最近に現地調査や留学をした若手研究者の文章には、現地での生活の息吹が感じられる。紛争下にありながら、パレスチナ/イスラエルには日常の暮らしがある。しかし、テルアビブや東エルサレム、西岸地区など、各地での長期滞在や留学を経験した筆者が描く日常は、どこか「非日常」であるという印象を拭えない。ペンネームで参加してくれたイスラエル国籍パレスチナ人の「雨雲」さんは、ガザを語ることもままならない事情を、つまびらかに記述している。
 
楽観や希望から、本書は最も遠い位置にある。帯のメッセージ、「希望は一体どこにあるのか?」という文言は、本書を編集しつつ、ガザの人道危機を同時代的に見つめることになった編者である私の声でもあった。ぜひ、いま世界で起きている不条理を読み取ってほしい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 特任准教授 鈴木 啓之)

本の目次

序章[鈴木啓之]
 
I ガザ情勢から見るパレスチナ/イスラエル
 
第1章 ガザの風景――潮風が香る街道の町[鈴木啓之
第2章 「封鎖」以前のガザ――うち続く反開発と人びとのスムード[藤屋リカ]
第3章 封鎖下の生活――若者の志を打ち砕く現実[手島正之]
第4章 国際社会とガザ――ガザの人びとと国際人道支援[吉田美紀]
第5章 ハマースとガザ――抵抗と統治のはざま[山本健介]
第6章 イスラームと政治――その規範的観点と歴史的文脈[ハディ・ハーニ]
第7章 パレスチナと国際人道法――継続する占領と集団罰[島本奈央]
第8章 イスラエルと虐殺の記憶――過剰防衛の歴史社会的背景[鶴見太郎
 コラム1 レバノンの政治運動とパレスチナ[早川英明]
 コラム2 イスラエル南部のキブツ[宇田川 彩]
 コラム3 イスラエル軍の徴兵制[澤口右樹]
 
II 日常のパレスチナ/イスラエル
 
第9章 東エルサレムと人びとの日常――支配の侵食に抗うこと[南部真喜子]
第10章 西エルサレムの人びとと生活――弦の橋が映し出す街の姿[屋山久美子]
第11章 イスラエル国籍のパレスチナ人――「1948年のアラブ人」の日常[雨雲]
第12章 ヨルダン川西岸での人びとの生活――入植地、分離壁、検問所の存在とその影響、生活する人たちの思い[福神 遥]
第13章 テルアビブ――世俗的首都の「多様性」[宇田川 彩]
第14章 終わりのみえない難民生活――レバノン在住のパレスチナ人[児玉恵美]
第15章 日常の中のナクバ/ナクバの中の日常――歴史の抹消にあらがう人びとの暮らし[金城美幸]
第16章 パレスチナをめぐるもうひとつの争点――LGBTQの権利について[保井啓志]
第17章 入植者植民地主義とパレスチナの解放――地中海からヨルダン川まで[今野泰三]
 コラム4 教育と日常[飛田麻也香]
 コラム5 「非日常」の抵抗――パレスチナと演劇[渡辺真帆]
 コラム6 日常という抵抗、文学という抵抗[佐藤まな]
 
III 日本や世界との関わり
 
第18章 UNRWAの活動と日本――70年続いてきた支援[清田明宏・角幸康]
第19章 国際NGOとパレスチナ社会――人びとの暮らしに寄り添って[大澤みずほ]
第20章 ガザの商品を扱う――フェアトレードの試み[山田しらべ]
第21章 パレスチナ・ガザ地区での医療援助――国境なき医師団の活動を通して見た紛争地医療の課題[白根麻衣子]
第22章 国際協力NGOとアドボカシー活動――日本外交への提言[並木麻衣]
第23章 パレスチナ勤務の経験から――緊急人道支援から大規模産業復興プロジェクトまで[大久保武]
第24章 帝国主義とパレスチナ・ディアスポラ――大英帝国からアメリカ帝国へ[イヤース・サリーム]
 コラム7 14歳のパレスチナ難民が日本に伝えたこと[新田朝子・石黒朝香]
 コラム8 転換期にあるBDS運動 ICJ暫定措置命令と対イスラエル武器禁輸[役重善洋]
 コラム9 『ガザ素顔の日常』上映と映画の力[関根健次]
 
 パレスチナ/イスラエルを知るための参考資料
 

関連情報

自著解説:
著者が語る (『季刊アラブ』No.189 2024年秋号)
https://japanarab.jp/arab/arab_189.html
 
パレスチナ/イスラエルの「いま」を知るために何が必要か? (『じんぶん堂』 2024年6月5日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/15283375
 
書評:
前田健太郎 (東京大学教授・行政学) 評 (『朝日新聞』 2024年8月3日)
https://book.asahi.com/article/15373860
 
イベント:
鈴木啓之×児玉恵美「中東の日常を私たちの生活のなかで考える:パレスチナ/イスラエル、レバノン、日本」『パレスチナ/イスラエルの〈いま〉を知るための24章』『イスラエルvs.ユダヤ人【増補新版〈ガザ以後〉】』(明石書店)W刊行記念 (本屋B&B 2025年1月18日)
https://bookandbeer.com/event/bb250118a/
 

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