ブレビスルセナールF 海からやって来た怪物分子
赤潮は、プランクトンの異常発生によって起こる現象です。このプランクトンには猛毒を持ったものがおり、大量の海洋生物の命が失われています。また、毒化した魚や貝を食べて重症の食中毒を起こすなど、人間にも大きな被害が発生しています。
東京大学理学系研究科の橘 和夫教授・佐竹 真幸准教授らのグループは、この赤潮毒の研究に取り組んでいます。毒の主体になっているのは、竜を思わせる奇妙な骨格を持った、ポリエーテルと呼ばれる化合物群です。これらは神経細胞のイオンチャネルに結合し、正常な情報伝達を阻害すると考えられていますが、その作用の全貌は未だ明らかになっていません。
同グループは今回、ニュージーランドのチームと共に、ブレビスルセナールFと命名された新規ポリエーテルを分離、各種機器分析を駆使してその構造を解明しました。この化合物は、24ものエーテル環が連結した特異な構造であり、現在まで発見されたあらゆる天然物のうちでも、五指に入る巨大なものでした。毒性は青酸カリの300倍にも達し、生理学的にも大変興味深いものです。
この研究の進展により、中毒の治療法の確立、またイオンチャネルの機能解明にもつながることが期待されています。
(東京大学グローバルCOE 「理工連携による化学イノベーション」 広報担当 佐藤 健太郎)
論文情報
Yuka Hamamoto, Kazuo Tachibana, Patrick T. Holland, Feng Shi, Veronica Beuzenberg, Yoshiyuki Itoh, and Masayuki Satake,
“Brevisulcenal-F: A Polycyclic Ether Toxin Associated with Massive Fish-kills in New Zealand”,
Journal of the American Chemical Society doi: 10.1021/ja212116q
論文へのリンク