失われた電子スピンの情報が、実は保存されていたことを発見 電子スピンを情報単位とするスピントロニクスデバイスの実用化へ前進
理化学研究所強相関量子科学グループ杉本 直之特別研究員と東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻永長 直人教授は、固体中の電子のスピン情報が保存されていることを発見しました。
従来、半導体中の電子は、電子の軌道運動とスピン運動が影響しあうスピン軌道相互作用の下、固体中の不純物などの衝突によってスピンの向き(スピン情報)が消失してしまうと考えられており、スピントロニクスデバイスの実用化への重大な問題でした。
研究チームは、一般化された磁場の概念を用いてスピン軌道相互作用を表現し、スピンに関する保存則を導出しました。つまり、消失したと考えられていた電子スピンの情報は「隠れた保存量」として記録され、保存されているということです。彼らは、コンピューターを用いた数値計算によって、初めにあったスピン情報が、理論の通りに保存されていることを確認しました。さらに、スピン軌道相互作用を弱くすると、穏やかに元のスピン状態に戻り、隠されたスピン情報が復元できることも数値的に確認しました。
この成果は、スピントロニクスデバイスの実用化のための問題解決につながり、従来のエレクトロニクスの限界を超えた新デバイスの創出につながります。
論文情報
Naoyuki Sugimoto and Nagaosa Naoto,
“Spin-orbit echo,”
Science [336] (2012): [1413-1416], Online Edition: 2012/6/15 (Japan time), doi: 10.1126/science.1217346.
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