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タンパク質合成に必須なtRNAの修飾構造を解明 ―40年前に決定された化学構造は分解物であった―

掲載日:2013年2月4日

ゲノム研究による生命現象の根本的な理解は、医療や創薬の分野に活かされることが期待されます。DNAに書かれた遺伝暗号(コドン)を精確に読み取ってタンパク質を合成することは、すべての生命に課せられたもっとも根本的で重要なタスクです。メッセンジャーRNA上のコドンを読み取るのはトランスファーRNA(tRNA)の役割です。tRNAには様々な修飾塩基が含まれており、これら修飾塩基の働きによって精確で効率の高い遺伝暗号の解読が可能になります。N 6-スレオニルカルバモイルアデノシン(t6A)は、約40年前に発見された最も有名な修飾塩基の1つで、ほぼすべての生物が持っています。タンパク質合成の様々な段階において重要な役割を担っており、実際、多くの生物の生育に必須であることが知られています。これまでの40年間、細胞内のtRNAにはt6Aが形成されているという前提のもと、研究がなされてきました。

ANNコドンを解読するtRNAの37位にある修飾塩基t6A(図右)は細胞内ではTcdAにより脱水環化され、ct6A(図中央)を形成している。 c Tsutomu Suzukict6A化によりコドンとアンチコドンの対合が安定化され、翻訳効率が上がると考えられる。リボソームAサイトにおける構造予測図(図中央下)によると、ct6Aの側鎖がコドン1字目のAを直接認識している。

東京大学大学院工学系研究科の鈴木勉教授と宮内健常特任研究員らの研究グループは、この修飾塩基t6Aが大腸菌や出芽酵母において、さらに修飾を受け、“サイクリックt6A (ct6A)”という新規修飾塩基を形成していることを発見しました。ct6Aは加水分解されやすく、これまでの解析手法では検出できませんでしたが、試料の調製法を最適化することではじめてその検出が可能になりました。特に大腸菌においては、t6Aは全く存在しないことが明らかとなり、細胞内のtRNAにはct6Aが形成されていることが初めて明らかになりました。さらに、ct6Aの形成に必須な修飾酵素TcdAを発見し、試験管内でのct6Aの再構成にも成功しています。

この研究は、生体内のRNAに含まれる修飾塩基の真の化学構造を明らかにしたものであり、タンパク質合成の精度を維持する機構を理解する上で重要な成果であると言えます。t6Aに関する40年来の研究は、主に大腸菌や酵母を用いて行われてきましたが、これらの研究は、ct6Aが加水分解されたアーティファクトを研究してきたことになり、これまでの間違った化学構造を前提とした研究の見直しを迫るものであります。

プレスリリース

論文情報

Kenjyo Miyauchi, Satoshi Kimura, Tsutomu Suzuki,
“A cyclic form of N 6-threonylcarbamoyladenosine as a widely distributed tRNA hypermodification”,
Nature Chemical Biology Online Edition: 2012/12/16 (Japan time), doi: 10.1038/nchembio.1137.
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