アフリカゾウはイヌの2倍もの嗅覚受容体遺伝子を持つ ゲノムの比較が明らかにした哺乳類の多様性

嗅覚は、多くの動物にとって、生存に必須の重要な感覚です。さまざまな匂いを嗅ぎ分ける能力は、その生物がもっている匂い分子を認識するタンパク質(嗅覚受容体)の種類と数によって決まります。東京大学大学院農学生命科学研究科・ERATO 東原化学感覚シグナルプロジェクトの新村芳人特任准教授、松井淳特任研究員、東原和成教授の研究グループは、13種の哺乳類のゲノム配列を解析し、アフリカゾウのゲノム中に、約2000個もの嗅覚受容体の遺伝子が存在することを見出しました。この数は、ヒトの5倍、イヌの2倍以上に相当し、これまでに報告された中で最多です。

© 2014 新村 芳人
13種の哺乳類ゲノム中に存在する嗅覚受容体遺伝子の数。「分断遺伝子」は、ゲノム配列データが不完全なため、現時点では機能遺伝子か偽遺伝子かを判定できないような配列。生物種名の左に系統関係を示した。
また、研究グループは個々の嗅覚受容体遺伝子がたどってきた進化の道筋を明らかにするための新しいバイオインフォマティクスの手法を確立し、それぞれの種における遺伝子の重複と欠失について解析しました。その結果、例えば嗅覚受容体遺伝子の祖先遺伝子には、アフリカゾウで84個の子孫遺伝子を生み出すなど、ある生物種で非常に数を増やした遺伝子の系統が存在する反面、ほとんど子孫を残さなかった遺伝子の系統も数多く存在することを見つけました。また、約1億年もの間、遺伝子の重複や欠失がなく、しかも遺伝子配列もほとんど変化していないような、進化的に非常に安定して維持されてきた特殊な嗅覚受容体遺伝子を3種類発見しました。それらの嗅覚受容体は、匂い分子の受容という機能だけでなく、あらゆる哺乳類に共通した重要な生理機能を担っていることが示唆されました。
それぞれの生物種のもつ嗅覚受容体のレパートリーは、生物種の生育環境に応じて、何百回もの遺伝子の重複と欠失を経て形作られたユニークなものです。それらのレパートリーを比較することによって、ヒトを含むさまざまな種の嗅覚の違いを分子の視点から理解できるようになると期待されます。
論文情報
Yoshihito Niimura, Atsushi Matsui, and Kazushige Touhara,
“Extreme expansion of the olfactory receptor gene repertoire in African elephants and evolutionary dynamics of orthologous gene groups in 13 placental mammals” ,
Genome Research Online Edition: 2014/7/23 (Japan time), doi: 10.1101/gr.169532.113.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)