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脂肪のとりすぎによる2型糖尿病にも胃薬は効くか? 分子モーター研究が拓く新たな糖尿病臨床

掲載日:2014年12月4日

東京大学大学院医学系研究科の廣川信隆特任教授と田中庸介助手らの研究チームは、細胞の中の微小管の上で物質を運ぶKIF12(kinesin superfamily protein 12)分子モータータンパク質が、脂肪分のとりすぎによって引き起こされる2型糖尿病の発症に深く関与していることを発見し、新しい治療法に結びつく手がかりを得ました。

超高解像度蛍光顕微鏡による、膵臓のベータ細胞を守るタンパク質の複合体。KIF12分子モータータンパク質(緑)がストレス制御タンパク質(青)とその転写因子(赤)に結合することで、これらのタンパク質の細胞内の量を維持する。脂肪分をとりすぎるとKIF12の量が下がり、この複合体が崩壊して糖尿病が進行すると示唆された。

© 2014 Wenxing Yang, Yosuke Tanaka and Nobutaka Hirokawa.
超高解像度蛍光顕微鏡による、膵臓のベータ細胞を守るタンパク質の複合体。KIF12分子モータータンパク質(緑)がストレス制御タンパク質(青)とその転写因子(赤)に結合することで、これらのタンパク質の細胞内の量を維持する。脂肪分をとりすぎるとKIF12の量が下がり、この複合体が崩壊して糖尿病が進行すると示唆された。

糖尿病は生活習慣病の一種であり、膵臓ベータ細胞が分泌するインスリンの働き不足により、血糖値が調整できなくなる病気です。その原因の一つとして、脂肪分のとりすぎによってベータ細胞内の酸化ストレスが上がり、インスリンを分泌しにくくなる「膵ベータ細胞の脂肪毒性」がよく知られていました。

超高解像度蛍光顕微鏡を用いた今回の研究成果によれば、KIF12タンパク質はストレス制御タンパク質Hsc70とその転写因子Sp1を同時に結合することにより、それらの量を増やし酸化ストレスを抑えています。脂肪分をとりすぎるとこのKIF12タンパク質の量が大幅に減ってしまうため、結果としてインスリンを分泌しにくくなることが示唆されました。

そこで、KIF12タンパク質の量が大幅に減った状態を再現するため、KIF12遺伝子を欠損した遺伝子改変マウスに、やはりストレス制御タンパク質の量を増やす作用のある市販胃腸薬のセルベックスTM(テプレノン)を投与したところ、マウスの糖尿病状態が大幅に改善しました。すなわち「高脂肪食をとりすぎても、この胃腸薬を飲んでいれば糖尿病の発症をある程度抑えられる」といった予防医学の可能性が、KIF12分子モーターの基礎研究を通して期待され、研究チームは臨床応用も視野にいれながら研究を進めていきます。

プレスリリース [PDF]

論文情報

Wenxing Yang, Yosuke Tanaka, Miki Bundo, and Nobutaka Hirokawa,
“Antioxidant Signaling Involving the Microtubule Motor KIF12 Is an Intracellular Target of Nutrition Excess in Beta Cells”,
Developmental Cell 31(2) (2014):202-14, doi: 10.1016/j.devcel.2014.08.028.
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大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 細胞生物学・解剖学講座、分子構造・動態・病態学寄付講座

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