がんのリンパ節転移を標的する高分子ミセル型ナノキャリア ナノキャリアの大きさと治療効果の関係


リンパ節へ転移したがんは薬剤ナノキャリア(図左)である高分子ミセルを静脈に投与することで標的することができ、高い抗腫瘍効果を示すことができる。このナノキャリアのサイズは、リンパ節内の転移巣を効果的に標的するための重要な要素であることが分かった。動物実験では、粒径30ナノメートル(nm)の高分子ミセルは効果的に転移がんの成長を抑制した一方で、70のミセルはあまり高い効果を示さなかった(図右)。リンパ節へ転移したがんの蛍光顕微鏡観察により、30ミセルが転移したがんへの高い集積性(図右・緑)が確認された。
© 2015 片岡研究室
東京大学大学院工学系研究科の片岡一則教授らの研究グループは、粒径が50ナノメートル以下の抗がん剤を内包した高分子ミセルは、マウスの全身に投与すると、リンパ節に転移したがんに効くことを明らかにしました。
リンパ節は、細菌や異物を取り除く場として知られています。このリンパ節に転移したがんは、既存の治療法では根治が極めて困難である悪性腫瘍のひとつです。また、リンパ節に転移したがんに対して効率よく薬剤を届ける方法はこれまで見出されていませんでした。
今回、研究グループはリンパ節に転移したがんに対する、白金制がん剤を内包した粒径30ナノメートル、70ナノメートルの高分子ミセル型ナノキャリアと臨床的に用いられている粒径80ナノメートルのドキシル®(ドキソルビシン内包リポソーム)の効果を比較検討しました。その結果、粒径30ナノメートルのナノキャリアのみが有意にリンパ節に転移したがん巣内の血管を透過し、さらに転移巣の深部へ浸透することが判明しました。
「この発見は、リンパ節に転移したがんを治療するためのナノキャリアを設計するうえで、粒径を制御することが重要であることを示した初めての例である。また、本成果によって、全身に投与してリンパ節に転移したがんを治療できるドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発に道を開くものである。これらの知見がまだ臨床的に症状を確認することができないリンパ節に転移したがん対する保存療法の発展に役立つことが期待される。」と片岡教授は話します。
論文情報
Systemic Targeting of Lymph Node Metastasis through the Blood Vascular System by Using Size-Controlled Nanocarriers", ACS Nano Online Edition: 2015/04/16 (Japan time), doi:10.1021/nn5070259.
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