液体・液体転移を支配する隠れた主役を捉える 液体における「多形」の存在を実証
東京大学生産技術研究所の田中肇教授らの研究グループは、単一の成分からなる液体が複数の液体相を持ち、その間を行き来する現象(液体・液体転移)を理解する上で鍵となる、構造体を観測することに成功しました。
単一の成分からなる物質であっても、炭素や水のように、分子が秩序立った構造を示す結晶相(ダイヤモンドとグラフェン)を複数もつことがあることはよく知られています。一方で、このような秩序のない液体には相は1つしか存在しないと考えられてきました。単一の成分からなる液体が示す液体・液体転移は、従来の液体の概念を覆す、新しい相転移現象として現在大きな注目を集めています。しかし、これまでに幾つかの物質でその存在を示唆する有力な手がかりが得られているものの、実験の困難さからその存在の有無を巡っては活発な議論が続いていました。液体・液体転移の存在を実証するためには、この転移を支配するミクロな構造を実験的に同定することが極めて重要です。
研究グループは、常圧下で亜リン酸トリフェニルという有機物が液体・液体転移を示す過程を、X線を照射して観察したところ、相転移により生じた新たな液体は、数個程度の分子で構成されるクラスターを多く含む、局所的に秩序だった液体状態であることがわかりました。
「液体は固体、気体と並び物質の三態の1つであり、金属、半導体、無機物、有機物をはじめとした幅広い物質群にみられる最も基本的かつ普遍的な存在状態です。本成果は液体・液体転移の起源に迫るばかりでなく、これまで乱雑かつ均質と考えられてき液体相に新たな視点を提供し、この重要な物質の存在状態についてより深い理解をもたらすものと期待されます」と田中教授は話します。
論文情報
Microscopic identification of the order parameter governing liquid-liquid transition in a molecular liquid", Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America Online Edition: 2015/4/27 (Japan time), doi:10.1073/pnas.1501149112.
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