「水をはじく表面」近くの水は、塩を溶かしにくい 汚染を防ぐ新たな表面材料の開発へ道
東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の伊藤喜光助教、同専攻の相田卓三教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 副センター長を兼任)らの研究グループは、材料表面の「水をはじく性質」が強ければ強いほどその近くの水に塩が溶けにくくなることを見出した。
表面に付着する汚れは、日常生活における服の汚れから船底への貝の付着に至るまでさまざまなところで問題となる。汚れの付着は、材料表面に汚染物質が密着することにより起こるため、汚れにくい材料表面を設計するためには、表面におけるナノスケールでの物質が接着する様子の理解が不可欠である。しかし、これまでその実態はよくわかっていなかった。
今回、研究グループは人工的に塩を表面に配置した板を用いて、「塩」と「水をはじく表面」との距離を変えて塩の溶けやすさを比較した。その結果、「塩」が「水をはじく表面」に近ければ近いほど表面の近くの水に溶けにくくなることが明らかとなった。このような変化が起こるのは、塩と水をはじく表面との距離が1ナノメートル程度であることを見出し、この距離は水に溶けている物質と表面の密着具合に密接に関連する。
本研究で見出された「水をはじく表面」近くの水は、塩をとかしにくいという現象は、これまで考えられてきた塩の溶解性に関する基礎科学的な常識を覆すものである。そのため、新たな汚れを防止するための表面の開発だけでなく、「水となじむ部位」と「水をはじく部位」の複雑な相互作用の理解が必要な薬剤の設計に大きな影響を与えると期待される。
論文情報
Subnanoscale hydrophobic modulation of salt bridges in aqueous media", Science 348, 2015: 555–559, doi:10.1126/science.aaa7532.
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