失った手足の痛みを感じる仕組み 失った手足の運動とそれらの痛みとの関係を解明
東京大学医学部属病院緩和ケア診療部の住谷昌彦准教授を中心とする研究グループは、切断によって失ったはずの手足を自分の意志で動かしているような感覚(幻肢の運動)の計測手法を開発し、幻肢の運動ができないと幻肢の痛みが強いことを明らかにしました。この計測手法は新しい幻肢痛の指標として治療開発に貢献することが期待されます。
幻肢痛は手腕や足の切断後に失ったはずの手足が存在(幻肢)するように感じられ、その幻肢が痛いという不思議な現象です。幻肢と幻肢痛は、手足の切断後だけでなく、神経傷害や脊髄損傷などによって手足の感覚と運動が麻痺した場合にも現れることがあります。幻肢痛(神経障害性疼痛)は、さまざまな原因で起こる慢性疼痛の中でも最も重症度が高いことが知られていますが、その治療法は十分ではありません。幻肢痛が発症するメカニズムとして、脳に存在する身体(手足)の地図が書き換わってしまうことが報告されていましたが、このような身体の地図の書き換わりを引き起こす要因については明らかにされておらず、発症メカニズムに基づいた治療法の開発が待たれます。
研究グループは、健康な手と幻肢を同時に動かす両手協調運動課題(Bimanual circle-line coordination task; BCT)という手法を用いて、幻肢の運動を計測し、幻肢の運動と幻肢痛との関係を調べました。その結果、幻肢を運動できるほど幻肢痛が弱く、幻肢を運動できないと幻肢痛が強いことを見出し、幻肢痛の発症には幻肢の随意運動の発現が直接的に関連していることを明らかにしました。
BCTは、幻肢の運動を定量的に評価することのできる手法で、健康な手で直線を描くのと同時に幻肢で円を描くと、健康な手で描く直線が円形に歪むという現象を利用したものです。健康な手で描く直線の歪みが大きければ大きいほど、幻肢で円を描く運動が行われていることを意味します。
この成果は、幻肢痛の治療開発に貢献すると期待され、さらに、住谷昌彦准教授は「大学院情報理工学系研究科の國吉康夫教授らとバーチャルリアリティ(仮想現実)を用いた新しい幻肢痛の治療開発の臨床研究を始めたところです」と話します。今後の成果は、幻肢痛や脊髄損傷後疼痛等の神経障害性疼痛疾患の治療に貢献するものと期待されます。
なお、本研究は東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎准教授、同大学院情報理工学系研究科の國吉康夫教授、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの大住倫弘助教らと共同で行われらものです。また、本研究は文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「構成論的発達科学」の支援を受けて実施されました。
論文情報
Structured Movement Representations of a Phantom Limb Associated with Phantom Limb Pain", Neuroscience Letters Online Edition: 2015/08/10 (Japan time), doi:10.1016/j.neulet.2015.08.009.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)