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パラジウムの磁力を電圧で制御できることが明らかに 非磁性体を電気的に磁石にする手法に道

掲載日:2015年9月29日

© 2015 Chiba Lab.図のような構造で電圧を加えると、パラジウム薄膜表面がイオンで覆われ、パラジウム内部の表面付近に電荷が蓄積します。磁気モーメントが増大する原因の一つと考えられます。

パラジウムに電圧を加えた際の磁気モーメントの誘起
図のような構造で電圧を加えると、パラジウム薄膜表面がイオンで覆われ、パラジウム内部の表面付近に電荷が蓄積します。磁気モーメントが増大する原因の一つと考えられます。
© 2015 Chiba Lab.

東京大学大学院工学系研究科の大日方絢大学院生、同研究科物理工学専攻の千葉大地准教授らの研究チームは、自然界に存在する状態では磁石の性質を示さない非磁性体として知られるパラジウムに磁石の性質を持たせることに成功し、電圧を加えることで、その磁力の大きさを可逆的に制御できることを明らかにしました。これにより、非磁性体を電気的に磁石化できる可能性に道を拓きました。

一度作った材料の性質を、あとから電気的にチューニングできれば、必要なときに、必要な特性を簡便・自在に得られるようになり、磁気デバイスに使われる材料の幅がさらに拡がります。磁石の性質を示す磁性体を扱う分野では、一方の電極が磁石の薄膜であるキャパシタ構造(コンデンサ)に電圧を加え、磁石の薄膜中に電荷(電子)を充放電することで、その磁力のチューニングやN極とS極の向きを反転させる試みが盛んになされてきました。従来の熱・磁界・電流で磁力を制御する手法よりも圧倒的な低消費電力で磁石の特性を制御できると期待されるからです。

このような研究の流れの中で、もともと磁石の性質を示す磁性体に電圧を加えて磁力を消すことが可能であることは報告されていました。しかし、逆に、磁石の性質を示さない非磁性体に電圧を加えて磁石化したり、非磁性体の状態に戻したりすることには成功していませんでした。

今回、研究チームは、自然には非磁性体の金属として知られる「パラジウム (元素記号:Pd)」に磁力を持たせ、その磁力の大きさを、電圧を加えることによって制御できること、正の電圧を加えた場合には負の電圧を加えた場合よりも磁力が強くなることを明らかにしました。具体的には、パラジウムの薄膜にコバルト(元素記号:Co)の薄膜を隣接させることでパラジウム自身に磁力をもたせた構造を作製し、その磁力の大きさを正負の電圧で制御できることを示しました。

今回の成果によって、「非磁性体を電気的に磁石にできる可能性を見出したといえます」と千葉准教授は話します。「もともと磁石でなかった材料を、あとから電圧を加えて磁石にしたり、またもとに戻したりすることが容易に可能になれば、現在では磁気工学の分野で用いられない物質も活躍できるようになるため、磁気デバイスに使われる材料の幅がさらに拡がると期待されます」。

また、本研究は電力中央研究所・材料科学研究所の小野新平主任研究員らと共同で行われました。

プレスリリース

論文情報

Aya Obinata, Yuki Hibino, Daichi Hayakawa, Tomohiro Koyama, Kazumoto Miwa, Shimpei Ono & Daichi Chiba, "Electric-field control of magnetic moment in Pd", Scientific Reports 5, Article Number: 14303 (2015), doi:10.1038/srep14303.
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