光の衣をまとった原子を電子で観る 電子線散乱を用いて観測に成功


レーザー場中のキセノン原子からの電子散乱信号画像
エネルギーと散乱角度の座標は白矢印で示しています。赤い円で囲った部分が光ドレスト状態の形成に起因する電子散乱信号です。
© 2015 Kaoru Yamanouchi.
東京大学大学院理学系研究科の山内 薫教授、歸家令果助教らのグループは、原子がレーザー場との相互作用の結果として、「光の衣をまとった状態(光ドレスト状態)」となったことを示す電子散乱信号の観測に初めて成功した。光ドレスト状態の理解が深まると期待されます。
普通、原子や分子に光を照射しても原子や分子の性質が光の性質によって変化することはありません。しかし、高強度のレーザー光を照射すると、原子や分子の性質が変化する光ドレスト状態(「原子が光の衣をまとった状態」)が形成されることが知られています。ところが、光ドレスト状態にある原子内の電子群の空間分布がどのように変化するかをモニターする実験手法は存在しませんでした。
一方で、光ドレスト状態にある原子が形成されると、特殊な電子散乱信号が現れるという理論的な予測が30年前からなされていました。しかし、これまでの長い歳月の間、その実証実験が行われることが期待されていましたが、実験が困難であるため、誰もその実証に成功していませんでした。
東京大学大学院理学系研究科の山内薫教授、歸家令果助教らのグループは、強度の高いレーザーをキセノン原子に照射して、強度レーザー場と相互作用しているキセノン原子を標的として高速電子散乱実験を行い、キセノン原子の光ドレスト状態を示す電子散乱信号(ピーク構造)を初めて観測しました。
今後、このピーク構造を詳細に解析することによって、光ドレスト原子内の電子分布の時間変動を明らかにできると可能性が高まります。そして、この手法を用いることによって、高強度レーザー場中の原子・分子過程における電子分布の動きを追跡することが可能となり、後続の発光や反応などのメカニズムへの理解を深めることができると期待されます。
論文情報
Light-Dressing Effect in Laser-Assisted Elastic Electron Scattering by Xe", Physical Review Letters Online Edition: 2015/09/16 (Japan time), doi:10.1103/PhysRevLett.115.123201.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)