前立腺癌に対してホルモン療法が効きづらくなる理由 エピゲノムの変化が耐性獲得に関与
東京大学大学院医学系研究科抗加齢医学講座の井上聡特任教授と同医学部附属病院老年病科の高山賢一助教らの研究グループは、前立腺癌のホルモン療法に対して獲得される抵抗力(耐性)について、その仕組みをエピゲノムの観点から世界で初めて明らかにしました。
前立腺癌は男性で最も頻度の高い癌であり、その発症者、死亡者は日本でも急激に増加しており男性の健康上の重要な問題です。男性ホルモンであるアンドロゲンの作用は前立腺癌の発生、進展を担っているため、前立腺癌の治療にはアンドロゲンの作用を抑制するホルモン療法が有効であり、広く普及しています。しかし、ホルモン療法に対する耐性を獲得することが癌治療において大きな問題となっています。そのため前立腺癌のホルモン療法について、どのようにして耐性化が獲得されるかという仕組みを解明することが待ち望まれていた。
今回、研究グループは、アンドロゲン作用やホルモン療法の耐性の獲得に伴い活性化されるマイクロRNAがDNA修飾を担うTET2遺伝子の発現を癌細胞全体において抑制することで、エピゲノム状態を変化させていることを見出しました。このエピゲノム状態の変化が、癌関連遺伝子の発現やアンドロゲンの作用を活性化し癌悪性化の鍵として関わっていることがわかりました。
「前立腺癌細胞がホルモン療法に対する耐性を獲得したマウスに、マイクロRNAの働きを抑制する薬剤を投与すると、ホルモン療法の効き目が高まりました」と井上特任教授は説明します。「実際に前立腺癌を患っている患者さんの細胞で発現されているマイクロRNAの量を分析したところ、マイクロRNAの発現が高いほど前立腺癌を再発しやすいこともわかりました」と続けます。
この成果は、ホルモン療法が効きづらくなった癌の新たな治療戦略の確立に役立つものと期待されます。本研究は文部科学省ならびに日本医療研究開発機構(AMED)の「次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム『ノンコーディングRNAを標的とした革新的がん医療シーズ』」の一環として行われたものであり、ロンドン時間2015年9月25日に科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に発表されました。
なお、本研究は東京大学医学部附属病院泌尿器科と共同で行いました。
プレスリリース [PDF]
論文情報
TET2 repression by androgen hormone regulates global hydroxymethylation status and prostate cancer progression", Nature Communications: 2015/09/25 (Japan time), doi:10.1038/ncomms9219.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)