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統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響 約30年間にわたる新聞記事データ5万件をテキストマイニングで解析

掲載日:2015年11月30日

© 2015 Shinsuke Koike.(上)「精神分裂病」と「統合失調症」を用いた新聞記事件数の推移と、(下)記事の見出しに用いられた単語数をカテゴリーごとに集計したもの。統合失調病の病名変更後、旧病名はほとんど用いられなくなったが、依然として犯罪関係とともに用いられることが最も多かった。

新聞記事件数の推移と、記事の見出しに用いられた単語のカテゴリー
(上)「精神分裂病」と「統合失調症」を用いた新聞記事件数の推移と、(下)記事の見出しに用いられた単語数をカテゴリーごとに集計したもの。統合失調病の病名変更後、旧病名はほとんど用いられなくなったが、依然として犯罪関係とともに用いられることが最も多かった。
© 2015 Shinsuke Koike.

東京大学学生相談ネットワーク本部/保健・健康推進本部の小池進介講師らは、過去約30年間の新聞記事2,200万件の網羅的な調査から、病名を「精神分裂病」から「統合失調症」に変更後、「精神分裂病」を使用する記事はほとんどなく、統合失調症の偏見・差別の減少に一定の貢献をしている可能性を示しました。その一方で、病名変更後も「統合失調症」を含む記事は、犯罪に関連づけされる傾向が続いていることも明らかにし、精神疾患についての報道のあり方を提案しました。

これまでの国内外の研究から、統合失調症が犯罪関連記事とともに報道されることが多いことは、偏見・差別を助長する原因の一つと指摘されてきました。日本では2002年に、統合失調症は精神分裂病から名称を変更し、統合失調症の偏見・差別を小さくすることを世界に先駆けて示してきました。しかしこれまで、病名変更がマスメディアに与えた影響を網羅的に解析した研究はなく、実態の把握が望まれていました。

小池講師らは、1985年1月1日から2013年12月31日に朝日新聞、産経新聞、毎日新聞、読売新聞で記載された29年間の新聞記事2,200万件から、「精神分裂病」「統合失調症」を見出しもしくは本文に含む記事をテキストマイニングという手法を用いて抽出し、解析しました。そして、2002年の新聞記事では、38.9%統合失調症に関する記事が、「精神分裂病」「統合失調症」双方の名称を含んでいる一方で、2004年以降は、3件に減少していることを明らかにしました。また、病名変更後も統合失調症に関する記事は、その見出しに用いられた単語の24.5%が犯罪関係であり、この傾向は名変更の前後で違いはありませんでした。

「これまでの犯罪研究により、犯罪事案は、統合失調症など精神疾患の有無よりも、貧困などの社会経済的状況、両親の離婚や虐待などの社会環境、アルコールや違法薬物の問題と関係していることが分かっています」と小池講師は話します。「マスメディア報道では、犯罪記事で精神疾患との関係を安易に結びつけず、他の要因も踏まえたうえで、多元的に議論する必要があります」と続けます。

論文情報

Shinsuke Koike, Sosei Yamaguchi, Yasutaka Ojio, Kazusa Ohta, Shuntaro Ando, "Effect of name change of schizophrenia on mass media between 1985 and 2013 in Japan: A text data mining analysis", Schizophrenia Bulletin Online Edition: 2015/11/26 (Japan time), doi:10.1093/schbul/sbv159.
論文へのリンク(掲載誌UTokyo Repository

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