短期と長期の運動記憶の画像化に成功 早く学んですぐ忘れる・ゆっくり学んで長く記憶 その違いはどこに?
東京大学、北海道大学、南カリフォルニア大学などの研究グループは、短期と長期の運動記憶が脳内で保存される様子を画像で捉えました。脳の状態をモニターしながら、練習効果が長く残るトレーニングやリハビリへの応用が期待されます。
試験前の一夜漬けのように、早く覚えたことはすぐ忘れてしまいますが、自転車の乗り方のように時間をかけて練習したことはずっと覚えています。このように、一夜漬けのような短期の運動記憶と自転車の乗り方のような長期の運動記憶が脳内に存在することは、これまで理論的に示されていました。しかし、脳が短期と長期の運動記憶を保存する様子を可視化して、これまでの理論を支持するような実証的な成果は得られていませんでした。
東京大学大学院人文社会系科の今水寛教授(ATR認知機構研究所客員所長)は、北海道大学の小川健二准教授、南カリフォルニア大学のニコラ・シュバイゴファー准教授、スムシン・キム研究員らとともに、短期と長期の運動記憶が、脳の異なる場所に保存される様子を、世界で初めて画像として捉えることに成功しました。今回明らかになった範囲では、極めて短期な運動記憶は、前頭—頭頂の広いネットワークが、中期的な運動記憶は頭頂の限られた部分、長期の運動記憶は小脳が関連することがわかりました。これは、機能的磁気共鳴画像(functional magnetic resonance imaging: fMRI)法という脳の活動を計測できる方法と計算論モデルを組み合わせることで可能になりました。
「人間の行動を外から観察しているだけでは、短期的に記憶しているのか、長期的に記憶しているのかわかりません。表面的にはうまくできているように見えても、記憶は長く残らないかも知れません」と今水教授は話します。「今回、私たちが開発した脳の計測と計算論モデルを組み合わせた方法は、脳の内部状態を推定して、どれくらい長期に残る記憶なのかを予測することができます」と続けます。本成果は脳の状態をモニターしながら、練習効果が長く残る効率的なトレーニングやリハビリを行うことが期待されます。
この成果は、オンラインの国際科学誌PLOS Biologyに掲載されました。
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論文情報
Neural substrates related to motor memory with multiple timescales in sensorimotor adaptation", PLOS Biology 2015/12/09, doi:10.1371/journal.pbio.1002312.
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