過量服薬による入院患者と精神科医による診察の関係 精神科医による診察は患者の再入院の減少と関連

東京大学大学院医学系研究科の金原明子特任助教、同笠井清登教授の研究グループは、入院患者データベースを用いて、精神科医による診察は、過剰な薬の摂取(過量服薬)による再入院の減少と関連していることを示しました。本成果は、「自殺未遂者への救急医療における精神科医療の重要性」を示唆し、今後の精神保健医療政策や自殺予防政策に、大きな寄与が期待されます。
自殺未遂者が自殺を完遂する可能性は、自殺未遂者以外の者と比較して、著しく高いといわれています。したがって、自殺者を減らす対策の1つとして、自殺未遂者に対する精神科医療が重要と考えられます。2008年度の診療報酬改定においても、自殺未遂者の再度の自殺企図を防ぐ目的で、「救命救急入院料 精神疾患診断治療初回加算」が新設されています。ところが、自殺未遂で受診した患者に対する精神科医療の有効性について、これまで確固たる根拠は示されていませんでした。
入院を要する自殺未遂の手段の多くは過量服薬です。そのため本研究グループは、救命救急センターに入院した過量服薬患者に対する精神科医の診察が、再入院の減少と関連しているかを、入院患者データベースに登録されている患者データ(2010年7月~2013年3月退院)を用いて調べました。その結果、救命救急センターに入院した過量服薬の患者への精神科医の診察は、再入院率の低さと関連していることが示されました。また、精神科医による診察を受けやすい過量服薬の患者の特性として、30代・女性・統合失調症・気分障害・パーソナリティ障害、重度の意識障害・挿管を受けた患者・2012年度退院患者が見つかりました。さらに、大学病院や病院症例数の多い病院ほど、過量服薬の患者に対して精神科医による診察を行っている傾向が見られました。
「今回私たちは、過量服薬が原因で救命救急センターに入院した患者の再入院を予防する処置として、精神科医による診察が重要であることをデータに基づいて、示しました」と金原特任助教は話します。「今回の知見がこれからの、精神保健医療政策や自殺予防政策に活用されることを期待しています」と続けます。
論文情報
Psychiatric Intervention and Repeated Admission to Emergency Centres Due to Drug Overdose", British Journal of Psychiatry Open: 2015/11/9 (Japan time), doi:10.1192/bjpo.bp.115.002204.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)