植物の生育に必要な金属輸送に関与するタンパク質の発見 TOM2は植物体内の金属輸送を担う
東京大学大学院農学生命科学研究科の野副朋子特任研究員(兼、明治学院大学専任講師)、中西啓仁特任准教授らの研究グループは植物の養分の通り道に存在し、物質の輸送に関与するTOM2の発現を抑制すると植物の生育阻害が引き起こされることを発見し、TOM2が植物の正常な生育に欠かせないことを見出しました。TOM2の改良により、植物生産の向上、食糧の品質改善が可能になると期待されます。
植物は生きていくために必須な金属栄養素を土壌にはった根からから得ています。金属栄養素のうち、特に鉄は、植物の生育やDNA合成や光合成などの様々な細胞内のプロセスに必須の金属栄養素ですが、水に溶けにくい状態で土壌に存在するため、鉄そのものを吸収するのは容易ではありません。このため、植物は根から、土壌内の金属栄養素と結合し、金属栄養素が水に溶けやすくなるような物質(ムギネ酸類)を分泌して、土壌から鉄などの金属栄養素を得ています。これまで、ムギネ酸類を土の中へ分泌する仕組みは分かっていませんでしたが、研究グループはTOM1と呼ばれるトランスポータータンパク質がムギネ酸類の分泌を担うことを明らかにしていました。ムギネ酸類は植物体内での金属栄養素の輸送にも関わっていますが、その詳細な分子機構はあまり分かっていませんでした。
今回、研究グループは、TOM1の仲間の一つであるTOM2が、植物体内におけるムギネ酸類の輸送を担っていること、TOM2の働きが植物の生育に必要であることを見出しました。TOM2は根から地上部への物質の通り道である中心柱や葉脈の維管束に存在し、植物体内におけるムギネ酸類の輸送に関わっていることが示唆されました。また、TOM2は根の原基や登熟期・発芽時の種子の胚で強く発現し、組織を形成する際の金属輸送に関わっている可能性も高まりました。さらに、TOM2の発現を抑えた遺伝子改変されたイネでは、その生育が著しく阻害されました。
「TOM2発現抑制イネでは非形質転換イネに比べて植物体全体の金属含量が高まっている傾向にあり、TOM2が植物体内での鉄の移行効率に関与し、植物の効率的な生育を促している可能性があります」と野副特任研究員は話します。「TOM2のように植物体内で物質の輸送に関わるトランスポータータンパク質を操作することによって、主食作物の収量や栄養素、鉄欠乏が問題となる不良土壌といった環境からのストレスへの耐性を高められることがわかっています。今回、TOM2の理解が深まったことにより、主食作物の改良にいっそう弾みがつくと期待されます」と続けます。
なお、本研究は東北大学の魚住信之教授、石川県立大学の西澤直子教授らの研究チームと共同で行われました。
論文情報
The phytosiderophore efflux transporter TOM2 is involved in metal transport in rice", The Journal of Biological Chemistry: 2015/10/2 (Japan time), doi:10.1074/jbc.M114.635193.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)
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大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻 新機能植物開発学研究室