ミュオグラフィ 21世紀の透視図法
19 世紀の終わりに「見えないものを見せる」新たな技術が生まれました。X 線の誕生です。ウィルヘルム・コンラッド・レントゲンは正体が良くわからない放射線という意味を込めて未知数の「X」という文字を頭につけました。そして、X 線の発見直後に夫人の手の X 線写真を撮影して、初めて生物の骨を外から透視しました。初めての投影機、つまりカメラオブスクラは 1502 年のレオナルド・ダ・ヴィンチの著作「Codex Atlanticus」にその記述がある通り、ピンホールを通して対象物体を投影する技術です。この技術によって、それまでの透視図法の概念が一新され、さらに躍動的ものになりました。透視図法はその後、写真、X 線、CTスキャンへと進化して、21 世紀には、ついに、人の大きさ程度に限定されていた透視対象物体の大きさも巨大化し、火山内部も透視できるようになってきています。火山の内部を透視撮影するために用いるのは X 線ではなくミュオン、と呼ばれる微少な粒子です。ミュオンを使った透視術は「ミュオグラフィ」と呼ばれます。これが 21 世紀の透視図法の最先端です。最近では、技術が発展し、火山内部のマグマの昇降も透視できるようになってきました。今後、この技術が飛躍的に発展すれば、地球の外の星の内部の透視も将来可能になるかもしれません。本図録では、ミュオグラフィの原理からこのような最新の応用例までを、東京大学の研究者をはじめ、関連分野における国内外の第一線の専門家が紹介しています。
書籍情報
ミュオグラフィ ――21世紀の透視図法』(東京:東京大学総合研究博物館、2015年)
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