生殖細胞ゲノムの守り神が成熟するしくみを解明 piRNA前駆体の末端を削る酵素「Trimmer」の同定
東京大学の研究グループは、生殖細胞のゲノムを守る小さなRNA(piRNA)の成熟に関わる酵素「Trimmer(トリマー)」を同定しました。このタンパク質の存在は長い間予想されていましたが、これまで見つかっていませんでした。本成果により、piRNAが成熟するしくみとその重要性が明らかになりました。
ヒトを含む生物には、ゲノム上を自由に移動できるトランスポゾンとよばれるゲノム配列が存在します。トランスポゾンが無秩序に移動すると、生物の遺伝情報を破壊する可能性があり、特に次世代の種となる生殖細胞では、その活性を抑えることは極めて重要です。近年、piRNA (PIWI-interacting RNA)と呼ばれる小さなRNAが動物の生殖細胞に発現し、生殖細胞でのトランスポゾンの活性抑制に中心的な役割を担っていることが明らかになってきました。piRNAは、前駆体RNAがPIWIと呼ばれるタンパク質に取り込まれた後、その末端が「Trimmer(トリマー)」と呼ばれるタンパク質に削り込まれることで成熟型になると考えられています。「Trimmer(トリマー)」の存在は長い間予想され、世界中で探索されてきましたが、未だに見つかっていませんでした。
今回、東京大学分子細胞生物学研究所の泉 奈津子助教と泊 幸秀教授らの研究グループは、piRNAを発現するカイコの卵巣に由来する細胞を用いた生化学的な解析から、カイコのTrimmerを同定することに成功しました。興味深いことにTrimmerは単独では機能できず、別のタンパク質(Papi)と協力して、piRNA前駆体の末端を削り込んでいることがわかりました。さらにTrimmerとPapiによりpiRNAが成熟化することが、piRNAが機能を発揮する上で重要であることを見出しました。
「Trimmerは、2011年に私たちの研究グループがはじめてその活性を検出することに成功したものの、分子の実体が不明でした」と泊教授は話します。「今回、Trimmerを同定し、piRNAが成熟するしくみを明らかにしたことで、生殖細胞のゲノムを守るpiRNAの生成メカニズムの理解が大きく前進する可能性があります」と期待を寄せます。
論文情報
Identification and functional analysis of the pre-piRNA 3' Trimmer in silkworms", Cell Online Edition: 2016/2/26 (Japan time), doi:10.1016/j.cell.2016.01.008.
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