太陽光を用いて水を分解できる粉末光触媒シート 1%超の太陽光から水素エネルギーへの変換効率を達成


粉末光触媒シートによる水分解反応
ガラス基板の導電層上に水素を発生する光触媒と酸素を発生する光触媒が固定化されている粉末光触媒シートは、水中に沈めて太陽光を照射すると水を分解して水素と酸素の気泡を発生します。
© 2016 Domen-Minegishi Laboratory.
東京大学大学院工学系研究科の堂免一成教授らの研究グループは粉末状の光触媒を材料とした光触媒シートを開発し、この光触媒シートが太陽光の1.1%を水素エネルギーに変換できることを示しました。開発した光触媒シートは大面積化と低コスト化に適しており、ソーラー水素を安価に大規模に供給できる可能性を持っています。
地球温暖化の問題を解決し、持続可能な低炭素社会を実現するためには、再生可能エネルギーを活用して化石資源に過度に頼らない革新的な化成品を製造する技術が必要です。光触媒は太陽エネルギーを利用して水を分解し水素エネルギーへと変換することができる物質です。この光触媒の反応は、再生可能なソーラー水素と二酸化炭素から有用な化成品を製造する人工光合成プロセスの基礎となるものであり、その実用化に向けては、水素エネルギーへの変換効率の向上、拡張性、製造コストを兼ね備えた技術の開発が課題となっています。
今回研究グループは、2種類の粉末状の光触媒と電気を通すことのできる材料をガラス基板に固定化した粉末光触媒シートを開発しました。粉末光触媒シートは、まず、ヒトの目で認識することのできる波長の光(可視光)を照射すると水素及び酸素を発生する2種類の光触媒粉末を混合してガラス基板上に塗布します。その後、電気を通す導電層を膜状に形成し、その後、導電層および粉末光触媒層の接合体をはがすことにより作ります。このような過程を経ることにより、光触媒粒子と導電層の抵抗を軽減できました。
「今回開発した粉末光触媒シートは水中に沈めて太陽光を当てるだけで水を分解し、補助電力等を用いずに同一面上で水素と酸素を生成することができます。そのため、高性能を保ったまま大面積に拡張できる特徴があります」と堂免教授は説明します。「大量生産への展開を見据えて、簡便で大面積展開可能なスクリーン印刷による塗布膜化にも成功し、水素および酸素の定常的な発生を確認しました。光触媒粉末の塗布コストは粉末光触媒シートの製造コストに直接反映されるため、今回のスクリーン印刷のように簡便な技術を用いることで光触媒シートの製造コストの大幅な削減が見込まれます」と今後の展開に期待を寄せます。
なお、本成果は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)、TOTO(株)と共同で得られたものです。
論文情報
Scalable water splitting on particulate photocatalyst sheets with a solar-to-hydrogen energy conversion efficiency exceeding 1%", Nature Materials Online Edition: 2016/03/08 (Japan time), doi:10.1038/NMAT4589.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)