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強力な磁石を観察できる顕微鏡プローブの開発 磁場に強く、電流も流れない、錆びないフェライト棒磁石が鍵

掲載日:2016年7月1日

© 2016 Shin-ichi Ohkoshi今回合成したε-Fe2O3フェライト棒磁石の原子間力顕微鏡像(左上図)と磁気力顕微鏡像(左下図)。これらの画像から、フェライト棒磁石の両端にN極とS極が存在することがわかりました。この単磁区構造の棒磁石を用いた短針プローブの特性は、強い磁場における磁気力顕微鏡観察を可能にすると期待されます(右図)。

磁場に強く、電流も流れない、錆びない理想的なフェライト棒磁石からなる磁気力顕微鏡(MFM)のプローブ
今回合成したε-Fe2O3フェライト棒磁石の原子間力顕微鏡像(左上図)と磁気力顕微鏡像(左下図)。これらの画像から、フェライト棒磁石の両端にN極とS極が存在することがわかりました。この単磁区構造の棒磁石を用いた短針プローブの特性は、強い磁場における磁気力顕微鏡観察を可能にすると期待されます(右図)。
© 2016 Shin-ichi Ohkoshi

東京大学大学院理学系研究科の大越慎一教授、筑波大学数理物質系の所裕子准教授、日立ハイテクサイエンスの山岡武博博士らの研究グループは、磁石の微小領域の形状を測定する磁気力顕微鏡用の探針(プローブ)を開発しました。これは、1マイクロメートル以下の巨大な保磁力を有するフェライト棒磁石の開発が鍵となりました。従来困難であった強力な磁石の表面観察や、強い磁場の下での磁気力顕微鏡観察が可能になると期待されます。

フェライト磁石は、ありふれた安価な物質からできており、玩具、固定用具、工芸品などに使われています。通常、棒状のフェライト磁石(フェライト棒磁石)は、磁性粉に熱を加えて成型することによって製造されるため、単磁区の磁石(一対のN極とS極からなる磁性材料)を作れないという課題がありました。

今回研究グループは、磁性粉を圧縮する従来の方法ではなく、逆ミセルゾルゲル法という特殊な化学的合成法を用いることにより、単磁区構造をもつ単結晶のフェライト棒磁石の開発に成功しました。この棒磁石は、ε-Fe2O3と呼ばれる物質からなり、外側から強い磁力をかけてもN極とS極が反転しにくく、1マイクロメートル以下の大きさでした。加えて、磁場の強い環境に置かれた場合でも、電流を加えた場合でも性質が変化することなく、錆びませんでした。そこで、これらの性質を利用した、磁気力顕微鏡プローブや、ミリ波吸収用途の塗布液とフィルムを開発しました。

「ε-Fe2O3フェライト磁石は、高周波ミリ波吸収材として安全運転支援システムなどのモノのインターネット(Internet of Things: IoT)に貢献する新素材としても注目されています」と大越教授は説明します。「2016年7月15日より英国立ロンドン科学博物館にて、今回私たちが開発したフェライト磁石が特別展示される予定です」と続けます。

プレスリリース

論文情報

Shin-ichi Ohkoshi, Asuka Namai, Takehiro Yamaoka, Marie Yoshikiyo, Kenta Imoto, Tomomichi Nasu, Shizuka Anan, Yoshikazu Umeta, Kosuke Nakagawa, and Hiroko Tokoro, "Mesoscopic bar magnet based on ε-Fe2O3 hard ferrite", Scientific Reports: 2016/06/07 (Japan time), doi:10.1038/srep27212.
論文へのリンク(掲載誌UTokyo Repository

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