スピンをレーザーで制御する レーザー照射で磁性の消失と金属化を放射光で観測


時間分解磁気円二色性で観測された磁化の変化の様子横
磁化が減少する時間が150ピコ秒程度から、強いレーザー照射によって70ピコ秒以下まで速くなる様子が見られる。軸の単位はピコ秒:1兆分の1秒である。
© 2016 和達 大樹
東京大学物性研究所の和達大樹准教授と同大学院工学系研究科の十倉好紀教授らの研究グループは、物質の磁性の有無を確認できる軟X線(比較的波長の長いX線)を用いた手法(磁気円二色性測定)により、強磁性の絶縁体酸化物の薄膜において、磁性が消えていく現象と金属化していく様子の観測に成功しました。レーザーを強くあてることで絶縁体であった薄膜が金属となり、絶縁体の磁性が消えるまでの時間が短くなるという画期的な成果です。
放射光施設における軟X線を利用した磁気円二色性測定は、最近の技術革新により薄膜やナノサイズ(1ナノメートルは10億分の1メートル)の極小試料における磁化の観測が元素別に可能になるなど、物質科学だけでなく、次世代のデバイスとして期待されているスピントロニクスへの応用が期待されています。一方、スピントロニクスにおいては、高速化に向けてスピンの制御を磁場でなくレーザーなどの光により行うことが求められています。
今回グループは、ドイツのグループと共同で、強磁性で絶縁性(電気が流れない)を示す鉄酸化物(BaFeO3)の薄舞約50ナノメートルを作製し、この薄膜の時間分解磁気円二色性測定を行いました。その結果、レーザーを照射することにより鉄酸化物の磁性が消える様子と絶縁体から金属へと変化する様子の観測に成功しました。さらにレーザーの強度を上げていくと、絶縁体であった薄膜が金属化して電気が流れるようになると同時に磁性が消えていくまでに要する時間が短くなることが分かりました。具体的には、レーザーの強度が弱いときには、磁性が消えていくまでに150ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)かかったところ、レーザー強度が強いときには70ピコ秒以下でした。
本成果は今後、レーザーによる磁気情報の書き込みなどの際に、レーザーの強度によって場所ごとに書き込む情報を変えるなどの応用につながることが期待できます。
「放射光X線を使った測定で、これほど明確に金属化と磁性が消えるまでにかかるの変化が見られたのは、望外の成果でした」と和達准教授は話します。「レーザーによる磁気情報の書き込みに、この金属化が活用できることが期待できます。またX線自由電子レーザーを用いることにより、今回の70ピコ秒よりさらに短い時間での測定を目指したいです」と続けます。
プレスリリース [PDF]
論文情報
Photoinduced Demagnetization and Insulator-to-Metal Transition in Ferromagnetic Insulating BaFeO3 Thin Films", Physical Review Letters: 2016/06/21 (Japan time), doi:10.1103/PhysRevLett.116.256402.
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