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幻の「マヨラナ粒子」の創発を磁性絶縁体中で捉える 電子スピンの分数化が室温まで生じていることを国際共同研究で実証

掲載日:2016年7月6日

© 2016 Joji Nasu and Yukitoshi Motome.光の散乱によって磁性体の基本構成要素である電子スピンが分数化し、マヨラナ粒子を2つ生成します。このプロセスが磁気ラマン散乱強度の特徴的な温度変化に現れます。

マヨラナ粒子が生じる様子のイメージ図
光の散乱によって磁性体の基本構成要素である電子スピンが分数化し、マヨラナ粒子を2つ生成します。このプロセスが磁気ラマン散乱強度の特徴的な温度変化に現れます。
© 2016 Joji Nasu and Yukitoshi Motome.

東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授らの国際研究グループは、幻の粒子といわれる「マヨラナ粒子」が、電気を通さない磁性体(磁性絶縁体)中で非常に低い温度から室温にわたる広い温度範囲で現れることを大規模な数値シミュレーションによって見出しました。

磁性絶縁体の基本的な性質は電子のもつスピンが支配しています。これまで、通常の磁性絶縁体中の電子スピンの集団は、その統計的な性質からボース粒子的に振る舞うと理解されてきました。ボース粒子とはこの世界を構成する基本粒子の存在形態のひとつで、すべての粒子はボース粒子かフェルミ粒子のどちらかに分類されます。しかし、量子スピン液体という特殊な量子状態が磁性絶縁体中で実現すると、電子スピンが複数のフェルミ粒子に分裂する「分数化」と呼ばれる現象が起き、磁性絶縁体はフェルミ粒子的に振る舞うことが理論的に予想されています。これを実験的に検証するために、これまで非常に低い温度における性質が精力的に調べられてきましたが、そこでは電子スピン以外の寄与が大きくなってしまうため、これまでとは全く異なる視点からの研究が必要とされていました。

国際研究グループは、絶対零度(-273.15℃)で量子スピン液体を示すことが知られているキタエフ模型と呼ばれる理論模型に対して大規模数値計算を適用し、光を照射した際のスペクトルを詳細に調べました。その結果、幻のフェルミ粒子といわれる「マヨラナ粒子」の痕跡を広い温度範囲にわたって見出しました。さらに、この数値計算の結果を、磁性絶縁体のひとつとされる塩化ルテニウムを用いたカナダと米国の実験結果と詳細に比較することで、マヨラナ粒子が約-250℃から室温にわたる非常に広い温度範囲に存在することを示しました。この結果は、これまでボース粒子に基づいて議論されてきた磁性の常識を覆すものです。

本研究の視点は、絶対零度近くにのみ着目してきた従来の研究とは一線を画すものです。マヨラナ粒子は、長年にわたって素粒子物理学の分野で注目され、最近では量子情報の分野でも盛んに研究されている幻の粒子です。本研究は、磁性絶縁体がこの幻の粒子を研究する格好の舞台であることを示した点で、これらの周辺分野に大きな波及効果をもたらすと期待されます。

「数値計算が実験データを美しく説明するグラフを初めて見たときは目を疑いました」と求教授は話します。「磁性は室温でも身近に見られる唯一の量子力学的な現象です。幻のマヨラナ粒子が、磁性体中では室温でも観測されうるという私たちの発見は、磁性研究のみならず量子情報の分野などにも非常にインパクトのある成果だと思います」と続けます。

論文情報

Joji Nasu, Johannes Knolle, Dmitry L. Kovrizhin, Yukitoshi Motome, and Roderich Moessner, "Fermionic response from fractionalization in an insulating two-dimensional magnet", Nature Physics Online Edition: 2016/07/05 (Japan time), doi:10.1038/nphys3809.
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