筋萎縮性側索硬化症の治療法に向けて 既存の抗てんかん薬がALSの症状をマウスで大きく改善


マウスにおけるペランパネル(高選択非競合AMPA受容体拮抗剤)の効果
孤発性ALSの症状を示すマウス群にペランパネルを口から投与した結果、ALSにのみ特徴的に見られる特異的な病理変化であるTDP-43病理の正常化が確認された(左)。一方、何も投与しない群では、TDP-43病理が見られた(右)
© 2016 Megumi Akamatsu.
東京大学大学院医学系研究科講師 郭伸らの研究グループは、これまで有効な治療法がなかった筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬として、新しい抗てんかん薬が有望であることを、ALSの症状を示すマウスに本治療薬を長期的に投与することにより示しました。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は主に中高年に発症する、進行性の筋力低下や筋萎縮を特徴とする神経難病です。健康な人を数年の内に呼吸筋麻痺により死に至らしめる難病で、この経過を遅らせる有効な治療法は現在のところ、ありません。これまで研究グループは、ALSの大多数を占める「遺伝しないALS(孤発性ALS)」では、ADAR2というRNAを編集する酵素の活性が低下することで、運動ニューロン内にカルシウムイオンが過剰に流入し、運動ニューロンの死につながっていることを突き止めていました。
今回、郭講師、赤松恵特任研究員と山下雄也特任研究員らの研究グループは、このカルシウムイオンの過剰な流入を抑える作用が期待される、既存の抗てんかん薬であるペランパネル(製品名「フィコンパ®」エーザイ株式会社)をALSの症状を示すマウス群に90日間連続で、口から投与しました。その結果、マウスの運動機能が低下すること、及びその原因となる運動ニューロンの死(変性脱落)が食い止められました。加えて、運動ニューロンで引き起こされているALSにのみ特徴的にみられる症状、TDP-43タンパク質が運動ニューロン内の一定部位で失われる異常(TDP-43病理)が回復し、正常化しました。また、発症前のみならず発症後に投与した場合であっても、運動ニューロンの死による症状の進行が抑えられました。
マウスを用いた結果ではあるものの、ペランパネルは既に承認されているてんかん治療薬です。また、ヒトに換算した場合にてんかん治療に要する用量でALSの症状を示したマウスに有効であり、安全性も確認できたことから、臨床応用へのハードルも低く、ALSの治療法につながる可能性が期待されます。
理論的に有効であることは予想していましたが、予想以上にALS症状への効果がみられ、マウスの脊髄の組織切片を評価した際には正常な状態近くにまで改善されていたので驚きました。この薬はすでに抗てんかん薬として承認されていることから、実用化への道筋も近いと期待します」と赤松特任研究員は話します。「この治療法により、ALS患者さんのQOL(生活の質)が少しでも改善されることを切望しています」と続けます。
論文情報
The AMPA receptor antagonist perampanel robustly rescues amyotrophic lateral sclerosis (ALS) pathology in sporadic ALS model mice", Scientific Reports Online Edition: 2016/06/28 (Japan time), doi:10.1038/srep28649.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)