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触媒反応でアルツハイマー病治療法に新たな道 アミロイド構造のみを区別して酸素化する光触媒を開発

掲載日:2016年7月27日

© 2016 金井 求光触媒に可視光を当てるとエネルギーの高い状態となり、元の状態に戻る際に、凝集Aβのアミロイド構造(緑)に結合し、光触媒の青と赤で示した面の角度が0度付近に固定されたときのみ、結合する酸素を発生し、凝集Aβを酸素化する。他の生体分子にはアミロイド構造がないため酸素化は起こらない。

今回開発した光触媒が凝集Aβを区別して酸素化する仕組み
光触媒に可視光を当てるとエネルギーの高い状態となり、元の状態に戻る際に、凝集Aβのアミロイド構造(緑)に結合し、光触媒の青と赤で示した面の角度が0度付近に固定されたときのみ、結合する酸素を発生し、凝集Aβを酸素化する。他の生体分子にはアミロイド構造がないため酸素化は起こらない。
© 2016 金井 求

東京大学大学院薬学系研究科の金井 求教授らの研究グループは、アルツハイマー病の発症に関与するとされるアミロイドβペプチド(Aβ)の凝集体が持つアミロイド構造のみを区別して酸素化し、その凝集を抑えられる光触媒を開発しました。本光触媒によって、Aβの凝集と細胞毒性を抑えることに成功しました。

アルツハイマー病の発症には、凝集したAβ(Aβ凝集体)が神経細胞を傷つけることが関与していると考えられています。そのため、Aβの凝集を抑える治療法の開発が盛んに進められてきました。研究グループは、触媒反応を用いる新しいアルツハイマー病治療法の確立を目指しており、これまでにも光を照射することによってAβを酸素化することで凝集を抑える化合物(光触媒)の開発に成功しています。しかし、Aβだけでなく、生体内で重要な役割を果たしている他の生体分子も同時に酸素化してしまうという問題点がありました。

他の生体分子を酸素化させないためには、Aβに結合したときのみ酸素化を起こす選択性の強い光触媒が必要であるため、研究グループはAβ凝集体に特有なアミロイド構造のみを区別して酸素化する光触媒(低分子有機化合物)を開発しました。本触媒を用いて試験管内でAβを酸素化すると、Aβ凝集体のさらなる凝集が抑えられます。また、本触媒にAβを認識するペプチドを結合させると、試験管内の細胞に対して、アミロイド構造を区別したAβの酸素化が進行し、Aβ凝集体による細胞毒性が軽減されることが明らかとなりました。

今後、本触媒を、エネルギーの小さい光でも酸素化を起こせるようにし、さらに生体に適合したものへと改良することで、触媒反応を用いた新しいアルツハイマー病治療法の確立につながるものと期待されます。

研究の現場指揮をとった相馬洋平グループリーダーは「何度も触媒を改変しなくてはなりませんでしたが、最終的にはアミロイドβペプチドの凝集体に結合したときだけ酸素化を起こすことのできる光触媒が開発できました」と話します。「次は、この触媒を動物実験に用いたいと考えています」と今後の展望を続けます。

本研究成果は、2016年6月27日(英国時間)に英国科学誌「Nature Chemistry」のオンライン速報版で公開されました。

プレスリリース

論文情報

Atsuhiko Taniguchi, Yusuke Shimizu, Kounosuke Oisaki, Youhei Sohma, Motomu Kanai, "Switchable Photooxygenation Catalysts that Sense Higher-Order Amyloid Structures", Nature Chemistry Online Edition: 2016/06/28 (Japan time), doi:10.1038/nchem.2550.
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