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バーチャルリアリティを用いた幻肢痛の新しい治療 失った手足を動かせるようになると痛みが和らぐ

掲載日:2016年9月6日

© 2016 Michihiro Osumi.図内のターゲットの場所までバーチャル幻肢を動かすリハビリをすると、幻肢の運動表象が改善するだけでなく、その改善に伴って幻肢痛も改善する。

バーチャルリアリティシステムを用いた幻肢痛の新しい治療法
図内のターゲットの場所までバーチャル幻肢を動かすリハビリをすると、幻肢の運動表象が改善するだけでなく、その改善に伴って幻肢痛も改善する。
© 2016 Michihiro Osumi.

東京大学医学部属病院緩和ケア診療部の住谷昌彦准教授らの研究グループは、手足などの切断や神経障害の後に存在しないはずの手足で感じる難治性の痛み(幻肢痛)について、仮想現実(バーチャルリアリティー)システムを用いて幻肢をあたかも自分の意思で動かしているような錯覚を繰り返すことにより、幻肢痛が和らぐことを明らかにしました。

手足の切断後や神経障害によって感覚を失われたにも関わらず、手足とその感覚が存在するように感じられ(幻肢)、その幻肢が痛む不思議な現象は「幻肢痛」と呼ばれています。実際に手足を失っていても、患者さんの脳内では幻肢を動かすイメージ(運動表象)を作ることができる方がいます。しかし、幻肢痛を感じる患者さんの多くは、このイメージを脳内で作れず、脳内で幻肢を動かすことができないために幻肢痛が生じると考えられています。また、従来の治療では十分にこの痛みを軽減することができませんでした。

研究グループは、幻肢をあたかも自らの意思で動かしていると錯覚する仮想現実(バーチャルリアリティ)システムを用いて、幻肢痛が改善されるか否かを検証しました。この検証に先立って、脳内で幻肢の運動表象が作られる度合いを両手干渉課題と呼ばれる方法により評価しました。その結果、バーチャルリアリティシステムを用いると、患者さんの幻肢痛が和らぐだけでなく、幻肢の運動表象と痛みの改善には有意な相関関係がみつかりました。

研究グループが開発したバーチャルリアリティシステムは、人の動きを記録することのできるモーションキャプチャで得た痛みのない方の手足(健肢)が運動している様子を左右反転させた映像をリアルタイムに頭に装着したディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)へ映し出すものです。患者さんはゴーグルのようなヘッドマウントディスプレイをかぶり、映し出された映像を見ながら健肢を動かすことによって自らの意志で幻肢を動かしているような仮想体験をすることができます。

この成果は幻肢痛の発症メカニズムが脳内での運動表象の異常であることを検証しただけでなく、幻肢痛についてバーチャルリアリティを用いた新しい脳科学に基づいた治療法の開発に成功したといえます。

「僕が痛みの研究者になったきっかけは、自分が子供の頃から極端な痛がりだったからです。痛みは本当に気分を悪くさせます」と住谷准教授は話します。「神経障害性疼痛は痛みを伴う病いの中でも重症度が最も高く、多くの患者さんが痛みに苦しんでいます。今回の私たちの研究結果は、幻肢痛や腕神経叢引き抜き損傷後疼痛だけでなく、脊髄損傷後疼痛や視床痛など運動麻痺を伴う神経障害性疼痛の患者さんの痛みの原因の解明と新しい治療法の開発につながります」と期待を寄せます。

なお、本成果は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「構成論的発達科学」の助成を受け実施され、日本時間7月5日にEuropean Journal of Pain誌(オンライン先行)にて発表されました。また、本成果は、東京大学大学院情報理工学系研究科の國吉康夫教授、同先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎准教授および畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの大住倫弘特任助教らとの共同研究によって得られたものです。

論文情報

Michihiro Osumi, Akimichi Ichinose, Masahiko Sumitani, Naoki Wake, Yuko Sano, Arito Yozu, Shin-ichiro Kumagaya, Yasuo Kuniyoshi, Shu Morioka, "Restoring movement representation and alleviating phantom limb pain through short-term neurorehabilitation with a virtual reality system", European Journal of Pain Online Edition: 2016/07/05 (Japan time), doi:10.1002/ejp.910.
論文へのリンク(掲載誌

関連リンク

医学部附属病院 緩和ケア診療部

大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻

先端科学技術研究センター 当事者研究プロジェクト

畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター

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