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二刀流モーターの分子メカニズムの解明 分子モータータンパク質KIF19Aの構造

掲載日:2016年11月1日

© 2016 廣川信隆(A) KIF19Aは微小管の上をプラス端に向かって進み、プラス端で微小管を脱重合します。微小管の形に合わせてKIF19Aの結合表面の立体構造も変化します。
(B) X線結晶構造解析により明らかになった分子構造と各部位の役割。

二刀流モーターKIF19Aの構造と役割
(A) KIF19Aは微小管の上をプラス端に向かって進み、プラス端で微小管を脱重合します。微小管の形に合わせてKIF19Aの結合表面の立体構造も変化します。
(B) X線結晶構造解析により明らかになった分子構造と各部位の役割。

© 2016 廣川信隆

東京大学大学院医学系研究科の廣川信隆特任教授らの研究グループは、KIF19Aと呼ばれる分子モーターの立体構造を解き、KIF19Aが繊毛の長さを調整するメカニズムを原子レベルで明らかにしました。

キネシンスーパーファミリー(KIF)はヒトから酵母に至るまで広く生物が持っているタンパク質の一群です。細胞内のレールである微小管に沿って細胞内の物質の運搬を担うものと、微小管を先端から壊していくものとが存在します。KIF分子モーターのなかでも、卵管、脳室、気管支などの繊毛にあるKIF19Aは、微小管上を先端(プラス端)に向かって進み、プラス端に到達すると微小管を壊して(脱重合)繊毛の長さを調節します。このようにKIF19は「運び屋」と「壊し屋」の双方の性質を併せ持つユニークな二刀流モーターで、その分子機構はまだわかっていませんでした。

今回、研究グループはX線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡構造解析の手法を用いて、KIF19AとKIF19Aが微小管に結合した状態(複合体)の詳細な3次元的な構造を明らかにしました。さらに、その構造情報に基づいてKIF19Aに人為的に変異を加えて、その生化学的・生物物理学的な機能を測定することで、「運び屋」と「壊し屋」の両立に重要なL2, L8, L12という構造要素を突き止めました。これらの3つの構造要素がKIF19A内で協同的に働くことで、微小管上での運動及び微小管先端での脱重合が可能になっていることがわかりました。

この研究は、KIF19Aの異常により生じる不妊症や水頭症をはじめとして、繊毛の機能異常に起因する疾患の病態解明や遺伝子診断、遺伝子治療の可能性を拓くものです。

「二刀流モーターであるKIF19Aと微小管がどのように相互作用するかを構造と機能の両面から説明することができました」と廣川特任教授は話します。「KIF19Aが働かないマウスでは、繊毛の長さが異常になり、卵管閉塞や水頭症といったヒトの病気と似た症状が起きると知られています。今回の結果をこれらの病気解明につなげられれば」と期待を寄せます。

論文情報

Doudou Wang, Ryo Nitta, Manatsu Morikawa, Hiroaki Yajima, Shigeyuki Inoue, Hideki Shigematsu, Masahide Kikkawa, and Nobutaka Hirokawa, "Motility and Microtubule Depolymerization Mechanisms of the Kinesin-8 motor, KIF19A", eLife Online Edition: 2016/09/30 (Japan time), doi:10.7554/eLife.18101.
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