嗅覚の障害部位を区別できるように 静脈性嗅覚検査で利用して神経性の嗅覚障害を検出


慢性の副鼻腔炎を患った患者群の嗅覚障害を静脈性嗅覚検査で分類
基準嗅力検査(T&Tテスト)で匂いに対する反応が悪い場合、静脈性嗅覚検査で潜時が正常な場合の嗅覚障害は伝導性嗅覚障害に相当し、潜時が延長している場合には神経性障害に相当する。
© 2016 Shu Kikuta.
東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・聴覚音声外科の山岨達也教授、菊田周助教、松本有助教 らの研究グループは 、これまで検査では見分けられなかた2つの嗅覚障害を区別できる手がかりを匂いの感知に関わるマウスの嗅細胞で見つけました。本成果は、匂い分子が嗅神経に届かないことによる「伝導性嗅覚障害」と嗅神経が障害される「神経性嗅覚障害」を見分ける検査の開発につながると期待されます。
鼻炎や蓄膿症によって匂いを感じなくなることを私たちはよく経験します。この症状が引き起こされる原因として、鼻水や鼻づまりによって匂いが嗅神経に到達できない「伝導性障害」と嗅神経自体が障害を受ける「神経性障害」の2つがあります。それぞれ治療法が全く異なるため、どちらの障害が原因かを区別することが治療方針を決定するうえで重要ですが、そのような検査方法はこれまでありませんでした。
嗅覚の働きを検査する方法としてよく使われるものに、静脈性嗅覚検査があります。この検査ではビタミンB1を静脈に注射し、ビタミンB1が肺胞で拡散され、呼吸によって短時間のうちに多くの嗅細胞が活性化されるのを測り、嗅覚の働きを確認できます。しかし、この検査法を応用して上述の2つの障害を見分けようとする研究はなされていません。
研究グループは、嗅覚障害を合併する慢性副鼻腔炎の患者群が手術 を受けた後、嗅覚が影響を受ける因子を検討したところ、手術前の静脈性嗅覚検査の結果、嗅細胞の活性に時間がかかった群 では、気流を改善させる内視鏡手術を行っても症状の改善が見られないことが分かりました。このような患者群では、神経性障害も併発している可能性があります。加えて、静脈性嗅覚検査によって嗅細が活性されるまでの時間が、伝導性嗅覚障害と神経性障害が見分ける手掛かりとなる可能性が示唆されました。
そこで研究グループは、次にマウスの尾の静脈からビタミンB1を投与したところ、嗅細胞が活性されるまでの時間(潜時)は伝導性障害を患ったマウスでは変化しない一方、神経性障害マウスでは延びることがわかりました。さらに潜時が延びる程度が神経性障害の症状でもある嗅上皮障害の程度と相関していました。
「静脈性嗅覚検査の新しい活用法を見つけることができました」山岨教授は説明します。「嗅覚障害の病態に基づいた分類が可能になり、これが治療法の選択や治療予後を見通す上で一助となることを期待ていします」と続けます。
本成果は、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科との共同研究によって得られたものです。
論文情報
Longer latency of sensory response to intravenous odor injection predicts olfactory neural disorder", Scientific Reports Online Edition: 2016/10/13 (Japan time), doi:10.1038/srep35361.
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