ARTICLES

English

印刷

記憶の確かさを判断するサルの大脳メカニズムを解明! 記憶の想起とその確信度の評価を担う神経基盤は異なる

掲載日:2017年3月16日

© 2017 Kentaro Miyamoto.A.マカクサル自身の記憶に対する確信度を評価した。もし、サルが高リスク選択肢(高確信度選択肢)を選んだ場合、先行する記憶課題が正解の場合のみ、多量の報酬を与えた。サルが低リスク選択肢(低確信度選択肢)を選んだ場合、正解・不正解に関わらず少量の報酬を与えた。
B.メタ記憶の判断に欠かせない神経基盤(背外側前頭葉の9野)は、記憶を思い出す機能を担う神経回路と独立して存在することが分かった。

メタ記憶の行動実験パラダイムと大脳メカニズム
A.マカクサル自身の記憶に対する確信度を評価した。もし、サルが高リスク選択肢(高確信度選択肢)を選んだ場合、先行する記憶課題が正解の場合のみ、多量の報酬を与えた。サルが低リスク選択肢(低確信度選択肢)を選んだ場合、正解・不正解に関わらず少量の報酬を与えた。
B.メタ記憶の判断に欠かせない神経基盤(背外側前頭葉の9野)は、記憶を思い出す機能を担う神経回路と独立して存在することが分かった。

© 2017 Kentaro Miyamoto.

東京大学大学院医学研究科の宮本健太郎研究員(日本学術振興会特別研究員)、順天堂大学大学院医学系研究科の宮下保司特任教授(東京大学大学院医学系研究科客員教授)らの研究グループは、自分自身の記憶を心の中で振り返って主観的に評価する能力「メタ記憶」の神経基盤をサルにおいて初めて同定しました。そして、「メタ記憶」の神経基盤は、記憶を思い出すために用いられている神経基盤とは異なることを発見しました。

「メタ記憶」は、自身の行った認知情報処理を振り返って評価することが必要となる高度な精神機能です。そのため、この精神機能は、永らく、ヒトのみに特有な能力だと考えられてきました。しかし、ヒトを対象とした研究では、脳の活動と行動の間の因果関係を調べることは困難なので、「メタ記憶」が私たちの脳からどのようにして生まれるのか、さらに、記憶そのものの処理と独立した「メタ記憶」特有の神経基盤が脳内に実際に存在しているかどうかは、現在まで分かっていませんでした。

そこで研究グループは、ヒトと生物学的に近しいマカクサルが行うことのできるメタ記憶課題を新しく開発し、サル自身が自らの記憶に対して確信している程度を、客観的かつ行動学的に評価する方法を見出しました。課題を行っている間にサルの脳の神経活動を磁気共鳴機能画像法(fMRI法)で計測しました。その結果、メタ記憶の処理時には、背外側前頭葉の9野と呼ばれる大脳領域が活動することが見出されました。さらに、神経活動を抑えるような薬剤(GABA-A受容体作動薬 ムシモール)をこの脳領域に注入し、神経活動を一時的に抑えたところ、長期記憶を思い出すことには全く影響が及ばない一方で、長期記憶に関わるメタ記憶判断(確信度判断)のみに問題が生じることを発見しました。

この成果は、将来的には、脳の機能に基づいた効果的な教育法の開発や、前頭前野が原因となる記憶に関わる高次脳機能障害の診断・治療法の確立に貢献すると期待されます。

「言語を持たないマカクサルの脳内に、内省のためのメタ記憶に特化した神経回路が存在するのは驚くべきことです」と宮本研究員は話します。「今回の成果を、これまでヒトに特有と考えられてきた高度な思考や推論の進化論的な起源の解明に繋げていきたいです」と期待を寄せます。

プレスリリース

論文情報

Kentaro Miyamoto, Takahiro Osada, Rieko Setsuie, Masaki Takeda, Keita Tamura, Yusuke Adachi, Yasushi Miyashita, "Causal neural network of metamemory for retrospection in primates", Science: 2017/01/13 (Japan time), doi:10.1126/science.aal0162.
論文へのリンク(掲載誌

関連リンク

大学院医学系研究科

大学院医学系研究科 生理学教室 宮下研究室

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる