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スピンの超高速ダイナミクスを放射光で観測 レーザー励起磁化反転解明への道

掲載日:2017年6月28日

© 2017 和達 大樹横軸の単位はピコ秒:1兆分の1秒。青と赤の差がXMCDすなわち磁化を示す。レーザー照射から約50ピコ秒後に消磁している。そして約400ピコ秒ほどかけて緩和し、元に戻っている。

時間分解XMCD測定で観測された磁化の時間変化の様子
横軸の単位はピコ秒:1兆分の1秒。青と赤の差がXMCDすなわち磁化を示す。レーザー照射から約50ピコ秒後に消磁している。そして約400ピコ秒ほどかけて緩和し、元に戻っている。
© 2017 和達 大樹

東京大学物性研究所の田久保耕特任研究員と和達大樹准教授らの研究グループは、放射光施設SPring-8 BL07LSUにおいて鉄白金薄膜におけるスピンの超高速ダイナミクス観測に成功しました。これは日本の放射光施設で唯一の実験装置であり、今後の系統的な磁性体のスピンダイナミクス研究に活用できる画期的な成果です。

放射光施設における軟X線(比較的波長の長いX線)を利用した磁気円二色性(XMCD)測定は、最近の技術革新により薄膜やナノサイズの極小試料における磁化の観測が元素別に可能になるなど、物質科学だけでなく、次世代のデバイスとして期待されているスピントロニクス(電子の電荷とスピンの両方を用いるエレクトロニクス)への応用が期待されています。一方、スピントロニクスにおいては、電流によってデバイス内の極小部分にのみ大きな磁場をかけスピンを制御することが難しいことから、スピンの制御を磁場でなくレーザーなどの光により行うことが求められています。

今回研究グループは、放射光施設SPring-8の東大物性研ビームライン(実験装置)であるBL07LSUにおいて、東北大学金属材料研究所の研究グループの作製した強磁性を示す合金である鉄白金薄膜を用いて、物質にレーザーを照射して現象を起こさせた直後に、放射光軟X線を照射し磁気円二色性測定を行うこと(時間分解磁気円二色性測定)に成功しました。

そして、レーザー強度を変化させた測定により、消磁を起こすためには、ある程度以上のレーザー強度が必要であることが分かりました。このような閾値の存在は、光で誘起した相転移で特徴的に表れる性質です。今回の測定では、レーザー光照射により消磁が起きていることを放射光の時間分解能である約50ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)で観測することに成功しました。本成果により今後、2種類以上の磁性元素を持つ合金において元素別のスピンダイナミクスを明らかにすることが期待できます。また、レーザーを用いて消磁のみでなく磁化の反転を起こす現象などの解明も期待できます。

「東大物性研ビームラインであるSPring-8のBL07LSUでスピンダイナミクス研究を行う第一歩となりました」と和達准教授は話します。「レーザーを用いた磁化の反転などスピンの自由な制御につながることが期待できます。また、放射光X線とX線自由電子レーザーを用いた系統的な磁性体のスピンダイナミクス研究を目指したいです」と続けます。

プレスリリース

論文情報

K. Takubo, K. Yamamoto, Y. Hirata, Y. Yokoyama, Y. Kubota, S. Yamamoto, S. Yamamoto, I. Matsuda, S. Shin, T. Seki, K. Takanashi, and H. Wadati, "Capturing ultrafast magnetic dynamics by time-resolved soft x-ray magnetic circular dichroism", Applied Physics Letters Online Edition: 2017/04/20 (Japan time), doi:10.1063/1.4981769.
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