酵素による天然物の多様化メカニズム メロテルペノイドの新規異性化酵素の構造解析に成功
東京大学薬学系研究科の阿部郁朗教授と森貴裕助教(当時)らの研究グループは、複雑天然物の生合成に関わる、原子の種類と数は同じでも構造が違う異性体という物質に変換することを触媒する異性化酵素の立体構造を明らかにし、酵素反応のメカニズムを解明しました。本成果は、酵素反応を用いた分子デザインと創薬への応用が期待されます。
自然界には様々な構造の化合物があり創薬資源として探索されていますが、中でもメロテルペノイドと呼ばれる化合物群は、植物や微生物に見出され、多様な生理活性を示すことが知られています。これらのメロテルペノイド化合物の生合成酵素は、劇的な骨格変換の触媒によって、その構造多様性を生み出す、ユニークな生体触媒として注目されています。
今回、研究グループは、糸状菌メロテルペノイド生合成に関わる分子量15kDa(キロダルトン)程度の機能未知タンパク質に注目し、その酵素が異性化反応だけでなく、多段階の加水分解反応をも触媒することを明らかにしました。それぞれの反応中間体と酵素の複合体の結晶構造解析を行い、その多段階反応の触媒メカニズムを詳細に解明することに成功しました。さらに、酵素の立体構造を基にアミノ酸変異を導入することで、立体の反転した化合物や、野生型酵素と異なる加水分解反応によって新規骨格化合物を与える、機能改変酵素の創出にも成功しました。
「私たちは今回、複雑な化合物の生合成に関わる酵素のメカニズムを解明しました」と阿部教授は話します。「有機合成では困難な反応などに対して、生体触媒によるドラッグデザインの手法によって貢献できれば」と期待を寄せます。
論文情報
Molecular basis for the unusual ring reconstruction in fungal meroterpenoid biogenesis", Nature Chemical Biology Online Edition: 2017/07/31 (Japan time), doi:10.1038/nchembio.2443.
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