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ダボス会議で感じた東大の役割 |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第8回

掲載日:2018年4月2日

実施日: 2018年03月26日

東京大学第30代総長 五神 真

ダボス会議で感じた東大の役割
 

1月末、スイスに出張し「ダボス会議」に参加しました。ダボス会議は、経済学者クラウス・シュワブ氏の提唱で1971年に始まった「世界経済フォーラム」の年次総会の通称で、今年のテーマは「Creating a Shared Future in a Fractured World」でした。今回はそこで感じたことをお伝えします。

参加の目的は世界27大学の学長が集まるGlobal University Leaders Forum(GULF)でした。このフォーラムでは、社会が激変する中で大学が生き残るためにどうすべきかというやや受け身の議論が中心でした。私たちは、東大ビジョン2020や指定国立大学法人提案において、大学が社会変革を駆動する、主体的で前向きな構想を掲げています。多くの優秀な人材を輩出し、社会作りに貢献してきた東大が、国内外の人材ネットワークを活用して協働のプラットフォームとなり、社会を変える中心的役割を担う、という構想はごく自然なものだと考えていました。しかし、世界において大学の位置づけは確かに多様で、私たちの目標設定はむしろ斬新なのだということに、気付いたのです。

また、GULFのメンバーとの懇談で、シュワブ氏は、AIやIoTやロボットなどの技術革新によって第四次産業革命は確実にやってくる、今議論したいのは、それが人類社会にどのような価値を付加するかだ、とおっしゃっていました。これは、私たちがすでに1年以上かけて議論してきた「スマート化を通じたインクルーシブな社会創り」(1504号参照)と重なります。つまり日本の議論は世界の一歩先を行っているのです。

経営者たちによるToward Better Capitalismというパネルディスカッションも印象的でした。資本主義をより良くすることはできるか、より重要なのは長期ビジョンか短期ビジョンか……。ある経営者は、若い会社は長期ビジョンを描いて勝負すべきだが、成熟した会社は短期の成果をきちんと出すことがより重要だ、長期ビジョンに向けた投資を実現させるには株主を納得させる必要があるからだ、と述べました。私はその時、日本の経営者の多くが長期ビジョンを描くことに苦労していると語っていたことを思い出しました。それならば、多様な時間軸の学知を持つ総合大学が一緒に長期的ビジョン創りをすることには意味があると考えたのです。それで始めたのが産学協創です。ダボスでの議論はこの連携の重要性を裏付けるものでした。

各国のリーダーの議論を聞いていると、より良い人類社会創りに貢献したいという目標は重なる部分が多く、東大で続けてきた先進的な議論の数々を、世界に伝えて行かねばならないと実感しました。(つづく)

「学内広報」1508号(2018年3月26日)掲載



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