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久田俊明名誉教授、杉浦清了名誉教授に日本学士院賞の授賞が決定

掲載日:2021年3月16日


久田俊明 東京大学名誉教授、杉浦清了 東京大学名誉教授に日本学士院賞が授賞されることが、2021年3月12日に行われた日本学士院総会において決定されました。
両名誉教授は新領域創成科学研究科人間環境学専攻で教鞭をとられていました。

研究題目
マルチスケール・マルチフィジックスシミュレーションのヒト心臓等への適用とその医学への応用(共同研究)
 
氏名および現職
久田俊明(ひさだ としあき)
東京大学名誉教授、(株)UT-Heart 研究所代表取締役会長
 
杉浦清了(すぎうら せいりょう)
東京大学名誉教授、(株)UT-Heart 研究所取締役社長
 
授賞理由
久田俊明氏は、機械工学の分野で柔軟な構造と流体の連成力学問題(注1)に関する研究に取り組み、流体と構造を区別することなく一体型の連立方程式で安定に解く手法を完成し心臓シミュレーションの理論的基盤を確立しました。杉浦清了氏は、心臓病の臨床に携わる一方で、臓器レベルの心臓力学から細胞・分子レベルまで、各スケールでの研究を独自の実験系により進めました。両氏は共同し、収縮タンパクの運動(注2)から血液の拍出に至る全階層をシームレスに繋いだ世界に類を見ない心臓シミュレータを「京」コンピュータ上に構築できることを示しました。これにより心臓の電気的・力学的機能(注3)を解明する基礎医学研究に貢献すると共に、臨床応用としてコンピュータ上に患者の心臓を再現し、それにさまざまの仮想治療(注4)を施せば最適な治療法を術前に予測できることを実証しました。現在、薬事申請へ向けての準備も進められています。また、京コンピュータの後継機「富岳」において、遺伝子から心臓の拍動までを繋げたシミュレーションが可能となるソフトウェアの開発にも成功しています。

【用語解説】
(注1)柔軟な構造と流体の連成力学問題
構造物が流体からかかる力(流体力)によって変形する時、特に構造が柔軟であれば変形は大きくなるが、その構造変形の影響を受けて流れの様相ひいては流体力が変化する場合、構造と流体は連成力学問題を構成する。連成力学問題の解析は、相互作用を適切に考慮したものでなければ正しい解が得られないばかりか解析自体が不安定になり破綻する。
 
(注2)収縮タンパクの運動
心臓の収縮力は、心筋細胞内の太いフィラメントを構成するミオシンと呼ばれるタンパク分子がアデノシン三リン酸の加水分解によって得られるエネルギーを活用して首振り運動し、アクチンフィラメントとの間に滑り運動が生じて心筋細胞が短縮することにより発生する。
 
(注3)心臓の電気的・力学的機能
心臓は拍動型の血液ポンプであり、機能評価には機械ポンプの場合と同様な力学的指標が適用されている。一方でこのポンプが効率的に機能するためには細胞の興奮(膜電位の発生)が心臓全体に速やかに伝播することが必要で、この状態を評価するために心電図を始めとする電気生理学的測定が行われる。
 
(注4)さまざまの仮想治療
例えば、ペースメーカーと同じ電気的刺激をコンピュータ上の心臓モデルに加えて拍動の変化をみたり、外科的手術と全く同じ形態的改変を心臓モデルに施して血流や血圧の変化を調べる心臓シミュレーションのこと。

日本学士院賞
学術上特にすぐれた論文、著書その他の研究業績に対して授賞される。明治43年創設。
 

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